言えない恋じゃないけれど(スア) 52
本屋に行くと言ってスアとは塾で別れた。
キエさんと、いつも待ち合わせる本屋の旅行ガイドの置かれたコーナー。
学習参考書コーナーや雑誌コーナーだと、知っている人に会う可能性があるから、キエさんが考えてくれた場所。
そっと<日本>と書かれたガイドブックを手に取った。
「日本に旅行をするの?」
その声に振り向くと、キエさんがニッコリと笑って隣に並んだ。
「ギルさんの赤ちゃんが生れて、おめでとうございます。」
「ありがとう。ギルとミニョンに伝えるわ。さっきね、ギルがミニョンに正式にプロポーズをして受けて貰ったって・・・・・・」
「そうですか・・・」
スアの気持ちを知っているから、ギルさんがプロポーズをした話を聞くと複雑な感じがした。
キエさんも、おめでたい事なのに嬉しそうな言い方ではなかった。
「スアちゃんはまだ若いから、いつかきっとお似合いの人が見つかるわ・・・・・それに・・・・・」
「オレはキエさん以外は好きになれません。」
「忘れて・・って言いたいけど・・・スングの事が本当に忘れる事が出来そうになくて・・・・・・・」
涙声になっていると判るキエの声。
スングはガイドブックをペラペラとめくりながら、キエの大きくなったお腹をチラッと見た。
「オレ・・・・キエさんの子供の父親になります。」
「何を言っているのよ。私はもうすぐ30よ。スングはまだ高校3年。離婚もまだしていないし・・・・・別れてくれないかもしれない。」
スアに言われなくても判っている。
キエさんとの事がお父さんやお母さんに判ったら、お父さんの地位もおじさんの会社にも迷惑が掛る。
でも、気持ちを変える事が出来ない。
「私がスングが生まれる時より10年後に生れていたら・・・・・・」
「会えなかったかもしれない。今のキエさんが好きだから。」
パラン高校の学生が何人か入って来た。
「駐車場に入っているから。」
いつも先にキエが本屋を出て、数分後にスングがキエの車の所に移動をすると、素早く車の後部座席に乗って直ぐに発信する。
本を一冊手にしてレジに進むと、同級生の一人に会った。
「スング、ちょうど良い所で会ったよ。」
振り払いたいくらいに、今すぐに店を出たい。
こいつらといるより、キエさんと一緒にいたいのだから。
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