言えない恋じゃないけれど(スア) 55
言ってはいけない事、聞いてはいけなかった事。
キエとスングは、口には出さなかったがお互いにそう思っていた。
「でもね、定期健診でエコーでお腹の中の子供を見ると『私がわがままだからいけない』『夫を陰でサポートしないといけない』そう思うの。うちは時間の不規則な母の代わりに、父が会社に勤めながら家事をして、私とギルの面倒を見ていたから、ついつい比べちゃうのよね。」
キエは掛けてあったバスタオルで身体を包み、スングから離れて汚れた衣類を洗面台で洗い始めた。
「別れる気はないのですか?」
「子供が出来たからね・・・子供の為に・・・・・・」
スングは拳をギュッと握り、目を一度閉じてまた開いた。
「オレと付き合いませんか?」
「何を言っているの?私は夫もいるし、子供も生まれるの。」
そう言われることは判っていた。 判っていたが、キエさんの気持ちを知ったら、自分の中で言わないといけないと思った。
「知っていますよ。知っていて言っているのです。もし、旦那さんに何か言われたらオレが守ります。」
「10歳も年下のスングに守ってもらわなくても・・・・・・旦那の方がスングを相手にしないわ。」
「相手にしないって・・・・・・」
「いくつか知ってる?うちの旦那・・・・44歳よ。旦那にしたらスングは、自分の子供と同じ年齢。オレが守るって言ったら、お前にキエと子供が楽に生活できるくらいに養えるかって言われるわ。」
そう言われたら『子ども扱いをするな』と言い返すことも『大丈夫です任せてください』とも言い切る事も出来ない。
そんなスングを見て、キエはニッコリと笑った。
「弟から始めましょ?」
「弟・・・・・・」
「母親同士は親友だし、スングが生れた時から私は知っているから『弟』よ。そう弟・・・・・・弟なら正々堂々と私と会えるじゃない。」
弟と思おうといつもしていた。
お母さんの仕事場に最初来始めた時はスングは小学生で、私は大学生。
可愛いスングが少年になり、少年から青年になり、成長するにつれて素敵な男の子になっていた。
大学を出て二年間は会社勤めをした。
その頃からスングが好きだった。
会社の取引先の社長が、私を気に入ったから会ってくれないかと言われて会ったのが、旦那・・・・・・
経済力もあり、まじめな人だからと両親に気に入られて結婚したけど、仕事優先の人。
15も違うから、子ども扱いされて・・・・・
さっきスングに抱きしめられた時、いけない事だけど女性として見てくれるスングを一人の男性(ひと)として見ている自分に気が付いた。
「もう大丈夫よ。吐き気も治まったから・・・チョッと横になるわ。」
心配そうにしているスングをキエは背中を押してドアの方に向けて歩かせた。
スングがエレベーターに乗ろうとした時に、入れ違いに中年の仕立ての良いスーツを着た男性が降りて来た。
その男性がキエの夫だとスングは直感した。
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