あなたに逢いたくて 54
「オレに内緒って・・・なんの話をしているのだよ・・・ハニがどうかしたのか?」
スンジョに話しを聞かれたと、グミとスチャンは一瞬ドキリとした。
「お・・お帰り・・・・なんでもないわ・・具合が悪くて・・・ウンジョにピザを取ったんだけど、スンジョは・・・・・」
何かを隠しているグミの様子に、スンジョは顔の表情からそれが何なのか読み取ろうとした。
「夕食はまだ食べていないし、親父も帰って来たばかりだろ?三人で<ソ・パルボク>に、食べに行かないか?久しぶりにおじさんのククスが食べたくなった。」
<ソ・パルボク>には、ハニが帰って来ている。
それも、スンジョの子供と思われる女の子と、ハニが結婚した相手だという男性がいる。
ハニがスンジョとの子供と認めていないから、スンジョに会わせたくない。
スンジョは、その子供が自分の子供だと気が付くはずだし、傷付いたハニの心を時間を掛けて癒して行かなければ、取り返しのつかない事になってしまうような気がしていた。
「ダ・・・ダメよ。今日は、臨時定休日だと言っていたから・・・・・ね、パパ。」
「ああ・・さっき、食べに行くからって連絡したら臨時休業で作れないって、ギドンが言ってたなぁ。他の店にしようか・・・・ほら、昔スンジョがバイトしていたファミレスなら、ウンジョにデザートでも食べさせられるし・・・・・そうしよう、スンジョ。」
二人は何かを隠しているのか、慌てた様子で話を逸らせている。
きっと、自分には知らせたくないことがあることにスンジョは気づいた。
ポケットから携帯を出して、スンジョはどこかに電話を掛けた。
「もしもし・・・・・・ペク・スンジョですけど・・・・ジュングか?」
「ぺ・・・・ペク・・・スンジョ?」
ジュングは、ハニと話しをしているギドンに代わって、店に掛かって来た電話に出た。相手がスンジョとわかると、焦ったようにハニの方を見た。
ハニはスンジョからの電話だと知ると、身体を硬くして涙を堪えた目でジュングの方を見て、いない事にして欲しいと首を横に振った。
「き・・・今日は・・・・・団体の予約客の貸切りで・・シェフは手が外せぇへんのや・・・・・悪いのぉ・・・・・明日も明後日もその次も・・・・一週間毎日予約客で・・いっぱいや・・・今・・出来た料理を急いで運ばんとあかんから・・・・・・・」
受話器を置いて大きく息を吐くと、近づいて来たギドンがジュングにありがとうというように肩を叩いた。
「パパ・・・・どうしよう・・・・・スンジョ君・・おばさんから聞いたのかもしれない、スンハのこと。きっと来るよ、ここに・・・・どうしよう・・・・」
その時ミナが、遠慮しがちに声を掛けた。
「ハニ・・・・・私のアパートに来る?狭いけど、スンハちゃんとハ二くらいは寝る事できるよ。」
小さな部屋で一人暮らしをしているミナの所には、よくジュリと止まりに行った事があった。
「でも・・・・」
「ペク・スンジョは、私のアパートは知らないと思うよ。」
「そうさせてもらったらどうだ?パパはいいと思うよ。」
「ミナ・・・いいの?」
「いいに決まってるでしょう。おじさん、毎日試験が終るまで、ジュングに迎えに来て貰うね。」
「悪いなぁ、ミナちゃん。スンジョ君が来る前に、行かせてもらえると助かるけど。ジュング・・また、車の用意をしてくれ。」
ハニは眠っているスンハを連れて、ジュングの運転で急いでミナの住んでいるアパートに逃げる様にして<ソ・パルボクククス>を出た。
スンジョに会いたい反面、隠して産んだスンハの存在を知られてしまう事が怖かった。
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