あなたに逢いたくて 55
ハニがジュングの運転でミナのアパートに移ってから、20分ほどで思っていた通り、スンジョがグミと両親と一緒に店にやって来た。
「い・・いらっしゃい・・・スンジョ君それとスチャンに奥さん・・・・今日は定休日で・・・・・・」
スンジョが店の中を見渡すが、ハニがいる様子がないものの、どこか緊張しているギドンとジュリが椅子に腰掛けて平静を装っていた。
店の入り口の方に背中を向けて座っていた一人の男性が、立ち上がってスンジョの方を向いて会釈をした。
「すみません、私はこれで失礼しますので・・・・」
スンジョより少し身体の線が細い感じのジョンスだが、ハニがいなくなってから随分と痩せた感じのするスンジョは、ジョンスよりもひとまわりも身体が小さく見えた。
ジョンスが通り過ぎる時、何かここにいる全員が自分に隠していることがあることに気づいた。
「おじさん・・・・ハニが帰って来ているのですか?」
ジョンスが店から出たのを確認してスンジョは尋ねたが、グミがどこまでスチャンやスンジョにハニの事を話をしたのか判らず誤魔化すようにギドンは話した。
「何を・・・何を言うんだ。ハニはここにはいないよ、今日はジュングがさっき言ったように貸切りで、何も用意できないが簡単な物なら出せるよ。さあ座って・・・・・」
ギドンに薦められるままテーブルに三人が着くと、スンジョはハニの友人のジュリの方を見た。
何時にも増して冷たいスンジョの視線に、ジュリは息をするのも忘れるくらいの恐怖を感じていた。
出来るだけスンジョと目を合わせない様にしないと、いつもの癖でポロッと口を滑らせてしまいような気がして、グミに挨拶をしてその場をしのごうと思った。
「お久しぶり・・です・・・おば様。ご無沙汰しています。お元気そうですね・・・」
「ジュリちゃん・・・・ミナちゃんは?あと・・・・」
ジュリはグミがハニとスンハのことを聞きたいのだと思った。
厨房でスンジョ達の様子を伺いながら調理しているギドンは、スンジョにハニとスンハのことをまだグミが話していないと思った。
「ミナは・・・・えっと・・・・締め切りが・・・ウエブ漫画の締め切りが迫っていて、家に帰りました。さっき、催促の電話があって・・・・・」
そこまで言った時、タイミングよくギドンが料理を運んで来た。
スンジョはギドンの顔とジュリの顔を交互に見ながら探りを入れるように低い声で話した。
「先日、医学部のソン教授に同行してウファ看護大学に行って来ました。」
ギドンの手が一瞬ピクリと震えたのをスンジョは見逃さなかった。
「ハニを見たんです・・・いや・・・・ハニを見たというより、らしい姿を見かけたんです。」
「お兄ちゃん!」
「スンジョ本当か?」
「教授に同行なので、自分勝手に行動が出来ないし、人が多くてハニに声を掛ける事が出来ませんでしたが、講演前に学生課の窓からと帰る車の中から振り返った時に後姿を見ました。」
ギドンは勘の鋭いスンジョのことだ、ハニがここに来ている事は薄々気づいていると感じた。
「ウファ看護大学は看護専門の大学ですよね。明後日には看護師の国家試験があるはずです。ウファ看護大学の試験会場がパランなのかどこなのかは知りませんが、ハニは来ていますよね。おじさんは、ハニを捨てたオレのことを許せない事は判っています。どんな親でも、大切な娘を結婚まで考えて付き合っていたのに、金の為に簡単に捨ててしまうような男は許せない事は承知です。」
どこか淋しげに話すスンジョを見ながら、ギドンはハニやスンハのことを言ってしまいたくなって来たが、頑なに拒んでいるハニの事を裏切ってまで言ってしまっては、さらに傷付いてしまうと思い、グッと堪えてただ黙ってスンジョの話を聞いていた。
「・・・あの時は仕方がなかったと思うよ。ワシはスンジョ君を許すとか許さないとかはそんな気持ちは無い。ハニがソウルを発つ時に言っていたことがあるんだ。スンジョ君は誰もが必要とするくらいに優秀な人で、自分にはもったいないくらいに素敵な人。そんなスンジョ君には自分よりもっと力になってくれる女性(ひと)がいるのだから、その女性と幸せになって欲しいから、住んでいる場所は絶対に教えないで、と・・・だから、ハニの事はもう忘れてくれないか?」
忘れられるはずがない・・・・・殻に篭った自分を連れ出して、氷の心を溶かしてくれたハニを、もう一度自分の胸に抱いて眠りたいと二年間思い続けていたのだから。
手離してしまって初めてハニはオレが生きて行くためには、傍にいなければいけない大切な宝物だと判った。
ハニが会いたくないと言っても、オレは会いたくて仕方がない。
会って、ハニが許してくれるまで10年でも20年でも許してくれるまでずっと謝り続ける。
ハニがいないと、息も出来ないくらいに苦しい・・・・
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