言えない恋じゃないけれど(スア) 59
「不倫?」
「そう・・・・不倫をしたの・・・」
一瞬顔色を変えたが、またいつもの夫の顔に戻った。
「今は生れてくる子供の事だけを考えなさい。私の仕事が忙しいから、一緒にいたいだけだよ。体調も今はよくないから気持ちが揺らいだだけだ。キエはそんな女性ではないから。」
この人はいつもそう。
15も年上だから仕方がないのかもしれない。
私を子ども扱いをするけど、すぐに30歳になるのに・・・
「さぁ、これを飲んで少し休みなさい。お義母さんが会社に持って来てくれたよ。キエに飲ませて欲しいって。」
私を子ども扱いをする夫に怒って欲しかった。
年下の男の子に思いを寄せている妻を叱って欲しかった。
あなたがそうなら私はこの気持ちを・・・・・・・・・・
キエは自分の気持ちに気が付いていなかった。
仕事熱心な優しい夫に、ただ自分を見て欲しかっただけだと言う事を。
スングは妹のスアのことを考えていた。
スアはギルと付き合っていた。
ギルもスアに好意を持っていたが、結局自分の子供を生むミニョンの元に行った。
カッコつけて、離婚をしたらキエとその子供を養うつもりでいた。
兄のスンスクは、年上の教育実習生のミラと結婚をして、結果的には亡くなってしまったが、子供たちと幸せに暮らしている。
ミラは婚約者がいたが、ひどい裏切りで別れてからのスンスクとの恋。
何の障害も無くなったわけではないが、正々堂々と一緒にいる事が出来た。
キエに子供が生れても、その子供は夫の子供だから本当にその子も愛せるのだろうか。
「スング、帰っているの?」
「お母さん?うん・・・・」
「ちょっと入ってもいい?」
「いいよ・・・・・」
郵便で届いたのだろう。
ハニは、茶封筒を二通スングの前に出した。
「本当に日本の大学に行くの」
「行くよ。どうして?」
「考えて欲しいな・・・・・」
「どうして、お父さんは反対しなかったよ。」
この時、母親が子供のスングが海外の大学に行くことが、単純に寂しいのだと思っていた。
「おばあちゃんがね、高齢になったじゃない。スングが日本の大学を出て帰って来る頃には、もういないかもしれないの。」
「どういう事?」
聞き返さなくても、それがどういう事なのかスングには判っていた。
「一年か・・・・二年・・・・だって。今日の検査で判ったの・・・・・・」
そうだよな。
いくら元気なおばあちゃんでも、80歳はとっくに過ぎている。
オレとスアは遅い年齢の子供だから、お父さんもお母さんも60は過ぎている。
いつまでも、自由気ままにしていい事はない。
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