言えない恋じゃないけれど(スア) 62
毎日見舞いに行くつもりだった。
女性病棟に高校生の男が行くのは、さすがに入り口で躊躇した。
あのおとなしいスンスク兄さんは、好きな人に逢うために戸惑わずに行ったのだろうか?
スンハ姉さんに会ったら、厄介な事になる。
どうかスンハ姉さんに会う事が無いように・・・・・・
スングは病室のネームプレートを一つずつ確認しながらキエの病室を探した。
一番奥の個室に、キエの名札が掛っていた。
ドアをノックしようと手を挙げた時、部屋の中からキエが誰かと話している声が聞こえて来た。
「先生・・・・お腹の子供は小さいのですか?」
「エコー画像でも正確ではなく、多少の誤差がありますが・・・・・・そうですね、平均よりは小さいですね。」
まさか・・・・・・ 聞き覚えのある声。
キエのネームプレートの横に掛けられた担当医の名前。
ペク・スンハ
運がいいのか悪いのか、兄妹の中で一番兄弟の中での権力があるのに口一番軽い姉が担当医だった。
「ツワリが治まって、胎児に問題が無ければ退院なんだけど、ご主人が一人にしておくのは心配だから、生まれるまで入院させて欲しいって言ってましたよ。」
キエが何かを言っていることは判るが、締まっているドアで内容まで解らない。
「夕方にも点滴の予定だからそれまではリラックスしていてね。眠れていないようだから眠っても構わないけど、行動は病室内だけにしてね。」
こちらに向かって来る姉の足音に、スングは咄嗟に向かい側にある給湯室に隠れた。
40代になってもほっそりとして背の高い美人の姉は、黙っていれば女優と間違われるくらいだが、年の離れたスングとスアを見ると、口うるさい母親のような存在になる。
そうなっても仕方がない。
スングとスアと同じ日に自分の子供を生んだのだから、弟や妹と言うより自分の子供と言った方がいいくらいだから。
「君・・・スング?だよね。」
誰かがお湯を沸かしているのは知っていたが、まさかそこにギルがいるとは思ってもいなかった。
「ギルさん・・・・・・どうして・・・・」
「どうしてって・・・・・ミニョンがまだ入院しているし、キエも入院しているからお袋と交代で様子を見に来ているんだ。」
「そうですか・・・・ミニョンさんの具合は・・・・・」
「もうひと月入院だよ。出産後の体調もあまり良くないし、どうせ退院の時に会見をするから、少し体型を戻してから出た方がいいから。」
『入籍だけした』と、スアから聞いた。
最初の子供を半年で亡くして、気持ちがすれ違ったから別れたと思ったら、子供が生まれると同時にまた寄りを戻して・・・・・・
結局は入籍はしていなくても、夫婦として暮らしたら完全に想いは消える事はないのだろうか?
「キエの見舞い?」
「別に・・・」
「まさか・・・同級生の彼女を妊娠させちゃったとか?」
「違いますよ・・・・おばあちゃんが入院しているから、見舞いをしに来たけど階を間違えただけです。」
直ぐにばれる嘘を最近よく使っている。
「じゃ、オレはミニョンの所に戻るから、君はここまで来たらキエに会って行けよ。向かい側の部屋だよ。」
何かを感づいているかのように、ギルは少しニヤッと笑って給湯室から出て行った。
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