言えない恋じゃないけれど(スア) 65
完敗だ・・・・
好きだから結婚できるわけでもない
オレには旦那さんの様に、キエさんを広い心で包み込むように守ることは出来ない
ただ『好きだ 好きだ』と言うだけではいけない
キエさんを旦那さんから離して自分と結婚?
負い目を感じるのは、オレじゃなくてキエさんだ
そんな時、オレはキエさんを広い心で守れるのだろうか
「君・・・・ちょっと・・・・」
俯いて歩いていると、背後からスングを誰かが呼び止めた。
「あ・・・・」
怒っている様子でもなく、むしろ笑顔のキエの夫にスングは怖さを感じた。
「少しラウンジで話をすることは出来るかな?・・・それとも病院に君のお父さんと兄弟がいるから外のカフェで話をした方がいいのかな?」
穏やかな表情が、返ってオレがいけない事をしていると思い知らされているように感じた。
「ここで・・・・・病院のラウンジでいいです。キエさんの具合が悪くなるといけないから。」
自分のキエさんに対する真剣な気持ちを判って欲しくて、キエさんの名前を出した。
スングの為に気を効かせたのだろう。
職員が使うラウンジではなく、患者や家族が使うラウンジに移動をすると、初めて向かい合って座った。
何を聞かれるのか、何を話さなければいけないのか、いくら高校生のスングでもそれくらいの事は判る。
『学生の身で自分の妻と子供を面倒みられるのか』と聞かれるのだと想像がつく。
握った拳が震え、緊張から足も震えて来た。
「君はキエの事が好きなのか?」
どう答えたらいいのか。
そのまま『はい』と言ってもいいのか、いいはずはない。
「キエも君のことが好きだと言っていた。正直に答えて欲しい。」
「好きです・・・・・・」
「で・・・どうしたい?キエに私と離婚して結婚して欲しいと言うのかい?」
「・・・・・・」
「君の想いも、キエの想いも本物かもしれない。小さい頃から知っている事もキエから聞いている。だが、それはよく知っている人だから好きだと言う感情かも知れないし、そうではないかもしれないが、私もキエが好きだし別れる気もない。判って欲しいのはよく知っているから好きだと言う事も恋愛感情と間違えると言う事。君もまだ若いし、10歳も年上のキエの事を忘れて、自分の年齢に合った相手と、普通の恋愛をしなさい。キエは私に不満はあるが嫌いではないと判っている。キエの性格上、好きでもない相手と結婚をして、その相手の男の子供を望むことはないから。」
大人だ・・・・・
年齢が大人ではなくて、考えている事が大人だ。
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