あなたに逢いたくて 57
食事が終わっても、スンジョとスチャンとグミとギドンは無言のまま時間だけが過ぎていった。
「スンジョ・・・・食事も食べ終わったし、もう帰ろう。家でウンジョが一人で待っているから、なっ?お前がした事で、傷ついたハニちゃんに会わせたくないおじさんの気持ちも考えて・・・・・本当に縁があるなら時が来たら、偶然でも会えるのだから。」
ハニの事を話そうとしないギドンの言葉を待っても仕方がない。
スンジョは、スチャンの言葉に黙って今日を改めようと思い、立ち上がってハニが使っていた部屋がある2階を見上げて店を出た。
「パパ・・・・・先にスンジョと帰ってくれるかしら?ギドンさんとジュリちゃんに聞きたいことがあるの。お願い・・・・・」
グミは納得がいかなかった。
この目でハニが子供を抱いたハニが、一緒にいた男性と結婚したと言った事と、その子供の顔がスンジョに似ていたのにその男性との子供だと言ったことが。
スンジョとスチャンが店を出て行き歩いて行く後姿を見て、背中を見ても判るくらいに絶望が伝わる息子の姿を見て母として何とかしてあげたいと思った。
店の中に入ると、グミは大きく息を吸ってギドンとジュリの目を見て訊ねた。
「ハニちゃんの抱いていた子供は・・・・・・スンジョの子供ではないかしら?」
「奥さん・・・・・」
「おばさん・・・・」
薄っすらと涙ぐむグミの目はとても悲しそうだった。
「ハニちゃんの思いも、ギドンさんの思いも理解できます。スンジョには何も言いません。ハニちゃんが、スンジョを忘れたくて黙っていたのなら、私の口からは言いません・・・・・・・だから、本当のことを教えていただけませんか?スンジョを産み育てた母親だから判ります。あの子供を一目見ただけで、スンジョの幼い頃に本当によく似ていて・・・・・・スンジョの子供だと判っています。どんなに冷たく突き放しても、一途にスンジョを思ってくれたハニちゃんが、他の男性と結婚するはずはないです。それに、ハニちゃんがとても愛情をかけて育てたことがわかる子供で・・・・・ギドンさんの孫である前に私の孫でもあるんです。決して私達の方から、ハニちゃんから子供を引き離したりしません・・・・・・お願いです・・・・・」
ギドンは暫く考えて、静かに話し始めた。
「奥さんの言うとおりです。あの子は、スンジョ君の子供です。スンジョ君と二度と会わないつもりで、スンジョ君に何も言わずにハニが産みました。結婚もしないのに子供が出来た事を私に詫びて、折角授かった子供を産みたい・・・・・そう言って。私の母親・・・ハニの祖母は診療所にいます。誰にも知られずに産ませてあげようと思い、年老いた私の母親の所に行かせました、幸いなことに渡しの母親は、助産婦の資格を持っています。ですが、島には助産婦は必要がありません。老人ばかりの島で、何十年かぶりの出産は島の年老いた私の母と診療所を手伝っている母と同じ年齢の女性で用意しました。二日間の陣痛は大変な物でした。精神的な不安もあり、食事も細くなったハニの体力は長引く陣痛でかなり消耗し、時折意識が遠のきましたが、それでもハニはずっと一人で頑張って産みました。その時に立ち会ったのが、ハニと一緒にいたキム・ジョンスです。私と母は彼が公衆衛生医師としての任務が終わったら、ハニと結婚させようと思っています。」
ギドンの最後の言葉を聞いて、グミは声を押し殺して泣いていた。
「子供の名前は・・・・・・・なんて言うのですか?」
「スンハ・・・です。」
「スンハ・・・・」
「・・・・スンジョ君のスンとハニのハを取って付けたと、ハニが言っていました。」
「ギドンさん・・・本当にごめんなさい。大切な娘さんに・・・・・・ああ・・スンジョがしたことが・・・・ハニちゃんとギドンさんばかりではなく、産まれた子供にも酷いことをして・・・・・・」
グミは血の繋がりはないが子を持つ母として、夫の親友の娘のハニを自分の娘として溺愛していた。
そんなハニを、我が子であるスンジョがしたことに悲しみ以上の苦しみを、スンジョの母としてずっと自分の生涯をかけて償いたいと思った。
0コメント