言えない恋じゃないけれど(スア) 72
「ごゆっくり」
祖母の病室の担当をしている看護師と、最近よく話をするようになっていた。
最初の頃は挨拶程度の話で、最近はお互いの個人的な事を話している事が多かった。
二人が他愛も無い事を話してと、少々嫌味っぽい言い方でスア達が座っているベンチをスングが通り過ぎようとしていた。
「スング!待って!待ってったらぁ・・・・・・あっ・・ごめんなさい、彼は双子の兄なの。またね・・・・・・」
長い足で素早く歩くスングに追いつくのは、いくらスアの足が長くても走らなくてはいけない。
「待ってよ!」
少しスングを追い越して前に立ち、歩きを止めた。
「何だよ、看護師と話をしていろよ。」
「拗ねてる!」
「拗ねてないよ。」
「誤解しないで、話していただけだから。」
「してないって・・・・・ギルさんを忘れる事が出来るのなら、あの男でもオレは許すから。」
ギルが好きだと言っていた時は、拗ねて焼きもちを焼いていたスングが、そそっかしい母や自分が食器を割ったり、物を落としたりしても、父が優しく気にするなと言って片付けてくれる時とよく似ていた。
「最近、スングはアッパに似て来たね。」
「そうか・・・・そう言うスアはお母さんに似て来た。」
「オンマに似て来たと言われるのは、どうとっていいのか複雑・・・・」
「そのまま・・そそっかしい所とか、笑った顔が似ているよ。特にさっきの男と話している時のスアの顔は、お父さんの顔を見ているお母さんと同じ顔だ。」
ギルの事が好きだとスアが言ってから、久しぶりに力を抜いた話が出来た。
お互い隠していた恋は両親には言えない恋だった。
隠していた恋だから、仲の良かったスアにも辛く当たって、またスングも素っ気無くされた。
「オレさ、やっぱり日本の大学に行くよ。おばあちゃんが行っていいって。」
「オンマは、こっちの大学にって言ったよね。おばあちゃんが・・・・」
「そのおばあちゃんが言ってくれたんだ。大丈夫だよ、おばあちゃんなら、どんな病気でも6年は生きていられるから。で、スアは進路はどうするんだ?テハン大に行くのか?」
スングの話が聞こえていないわけではないが、スアは先を歩き始めた。
無言でスングの前を歩く時は、何か一人で悩んでいる時が多い。
聞き出すことをしないで、スアの後を黙って歩いていると、急に立ち止まって振り向いた。
「大学に行かない。」
「行かないって・・どうするんだよ。」
「家のことをするわ。おばあちゃんが入院したから、家のことをする人がいなくなったじゃない。そそっかしい所はオンマと似ているけど、家事はオンマよりも出来るわ。将来何になるかも思い浮かばないし、大学に何のために行ったらいいのかも判らない。勉強だって別に医学部に行くつもりもないから、知りたいことがあったら自力で調べればいいじゃない。一日家にいて、オンマと話をしたり買い物に行ったり・・・・・・オンマだって、孫の世話をしたりしているけど、そんなに若いわけじゃないから大変だと思う。」
がいれば父がいる。
母と二人だけで家で話したりすることが出来るとは思えないが、スアは祖母が高校卒業と同時に結婚をした話を聞いて、将来は祖母の様な良妻賢母になるのもいいと思っていた。
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