言えない恋じゃないけれど(スア) 76
ハニはアルバムを見ながら、双子たちを授かった時の事を思い出していた。
スンハが大学3年になったころ『妊娠したから結婚をしたい。
アッパが怖くて言い出せないからきっかけを作ってほしい』と言われた。
スンミを一番溺愛していたが、スンハも勿論可愛がっていたスンジョ君だったから、スンハは私とお母さんにだけ話してインスン君とのお付き合い。
グミが『デキ婚なら、スンジョが許す』なんて言うから、どうしてもインスンと結婚がしたかったスンハは自分の排卵日に合わせて計画的に妊娠をした。
その頃、いつもならすぐに妊娠に気が付かないハニが、あとから気がつけば双子だったからなのか人生で初めてくらいに体調が悪く、もしかしてと言う予兆はあった。
年齢も年齢だしホルモンのバランスが崩れているのだろうと、スンジョにも妊娠しているかもしれないと言い出せなかった。
ちょうどその頃のスンジョは仕事も忙しく、他大学に講義に行ったり講演活動にパラン大学医学部の講義に加えて病院での仕事と、土日は資料を作ったり殆ど眠る暇のないくらいの毎日だった。
当時一番下のスンギも、泣き虫で甘えっ子だったが少しずつ手が離れる様になって来たから、体調が良くない事を言わなかったし言えなかった。
「アッパの誕生日に、いつものお店で食事をするから、そこに連れていらっしゃい。」
外でスンジョに言えば怒らないだろうとハニは思っていた。
永年夫婦でいると他人には判らない事も、いくら鈍感なハニでも判るようになる。
スンハが結婚がしたいと言った後のその日の夜、もしかしたら妊娠したかもしれないと言うつもりもあった。
微量の出血もあったから、やはり妊娠ではない。
もうすぐ生理が来るから妊娠のような症状があったと思い、思い違いかもしれないと思い込もうとしたのもあったが結局スンハの妊娠告白に結婚で言い出さなかった。
その日の夜、妊娠の不安はあったが久しぶりにスンジョの誘いに応じた。
「やっぱり、この頃の写真を見ると顔色が悪いわね。」
日を改めてインスンとスンハと四人で食事をした時の写真は、やはりスンジョは不機嫌な顔。
妊娠と思い違いをしていたと自分にそう言い聞かせ、吐き気止めや胃腸薬まで飲んでいて、早く生理が来ないかなぁと不安にしていた毎日。
年齢を考えて、本当に妊娠をしていたらスンジョに内緒で生まない事にしようと考えていた。
家族の誰にも言わず、年老いて予想外に出来てしまった子供がお腹にいる時、看護師であるのにむやみに薬を飲んでずっと後悔をしていた。
吐いている時を見つかるのも判り切っているし、さすがに様子の違う妻を夫が見逃すはずが無かった。
忙しくてもちゃんと毎日家に帰って来るスンジョも、ハニの具合が悪い顔をしているのに気が付かないはずがない。
「パク先生の所に行くように。」
そう言われて、妊娠した時にいつも見てもらっていたパク先生に診察をしてもらうと、思った通り妊娠していた。
40代後半で生まれれば6人目の子供。
スンジョが生まれる時からペク家を知っているパク先生は、仕事中でも顔を合わすことがあったし、安心して話が出来る産科のベテラン医師。
「ちゃんと二つの心音が聞こえますよ。」
エコー画像に写る二つの小さな命。
あの時の自分のしたことが今でもはっきりと覚えている。
「先生、この子達を生みません。主人に内緒で手術をしてください。」
先生には薬を服薬していた話をし、5人も子供がいて年齢も若くないし、孫も生まれるのに、その孫と歳も同じでは恥かしいと話した。
「服薬したことで不安だからそう思うのなら、手術を安易に考えるよりも生まれてから対処しましょう。医師であるご主人に内緒で子供を中絶するのは反対です。」
不倫したとは先生は疑う事はなかった。
私が今でもスンジョ君しか愛せない事を知っているし、スンジョ君も私しか愛せない事を知っているから。
生まないと言った私にパク先生がまた心音を聞かせてくれた。
規則正しく聞こえる二つの心音。
その音が、オンマが私達を苛めていると言っているように聞こえた。
「ちゃんと心臓が動いているでしょ?随分前に流産した子供が悲しむわよ。『オンマが妹や弟を苛めている。僕は生れたかったのに生まれる事が出来なくてオンマが泣いたのに、僕の妹や弟が知ったらきっと泣くよ・・・』そう天国で思っているわよ。」
迷ったけど生んでよかった。
スンギや他の子たちには、安全に出産が出来るように早くから入院をしていたから淋しい思いをさせたけど、兄弟仲良く育って本当に良かった。
一人っ子で寂しい思いをして育った私の夢は沢山の子供のお母さんになる事。
グミが写してくれた沢山の写真。
アルバムも数えきれないほどある。
涙を拭いて顔を上げると、気が付かないうちにスンジョが前に立っていた。
「双子たちを生むことにして良かっただろ?」
「スンジョ君・・・・・」
「ハニが双子を妊娠したと言ったあの日、パク先生から連絡があったんだ。ハニが胃腸薬と吐き気止めをうっかりと服薬して不安にしている事と、年齢を考えて中絶を希望したと。その時に、先生に言ったよ。もし、ハニがまた中絶を希望すると言ったらその時はお願いしますと。」
意外なスンジョの言葉に、ハニは驚いて立ち上がった。
「オレも医師なら、ハニが遅い妊娠を負担に思ってしまうかもしれないと知ったら避妊をするべきだった。ハニの年齢の事を考えて、避妊もしなかったオレに責任があるから。」
お互い当時の事は言わないでいようと思っていたが、それがお互いの相手に対しての負い目になっていた。
「もう遅いから寝ようか?この歳になると、遅くまで起きて本を読むのも目が疲れるからな。明日スングを空港に迎えに行く時間が早いから寝坊するなよ。」
「しないわよ。」
スンジョに背中を押されながら、ハニは一緒にベッドに入った。
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