言えない恋じゃないけれど(スア) 77
国際線到着ロビーの一角に、ひときわ賑やかな団体がいた。
迎える人たちは、待ち人が姿を現すのを今か今かと首を長くしていた。
「お母さん、もうすぐですよ。もうすぐスングが・・・・・・」
「ハニちゃん、泣いているの?」
「だって、お母さん・・・・・スングは日本語も受験勉強と合わせて・・・・・・どんなに頑張ったか・・・・」
成績はパラン高校でトップ。
模試も不動の一位をスングはキープしていた。
日本の大学に行くのなら日本語を確実に理解しないといけない。
幼い頃から長期休暇の時は姉や兄たちと何度も遊びに行っていたスンジョの従兄弟の智樹の家に、会話に困らないからとの事で滞在していたが、さすが天才ペク・スンジョの遺伝子を受け継いでいるからなのか、完璧な日本語を取得しようと睡眠時間を削って受験勉強と並行して一年間日本語を勉強をしていた。
そこまではハニも知っていたが、スアはもっと前のちょど高校に上がった頃から、スングが日本語の勉強をしていたのを知っていた。
第二外国語に日本語を取った時、会話も読解も学校で習う程度の事はすでに習得しているスングの学力を不、ハニは思議に思っていた。
「スング!」
家族の中で大勢の到着した人の中から一番最初に姿を見つけたのは、母親であるハニではなくスングの留学を勧めたグミだった。
「ただいま。」
ほんの数ヶ月の間に、大人っぽくなったようなスングを見て、ハニは両手で顔を覆って泣き出した。
「お母さん・・・・この派手な出迎えの横断幕・・・・・・恥かしいよ・・・」
「これは、おばあちゃんが作ったのよ。何十年ぶりかしら・・・・」
小学校の頃は、運動会のたびに撮影旅行の合間の時間を使って横断幕をよく作っていた。
双子が生まれた時、誰よりも喜んだのはグミだった。
まだ当時は幼くて甘えん坊なスンギに、身体の弱かったスンミがいたから、双子が生まれた時のハニは育児疲れでゲッソリとやつれていた。
スンハの息子インハと一緒にハニを手伝いながら、グミは楽しそうに双子たちの世話もしていた。
「スング、おばあちゃんは久しぶりに張り切って、横断幕を作ったことが良かったのか、驚くほど元気になったんだ。目標があるのはどんな良薬よりも効くらしい事を立証してくれたよ。」
「お父さん・・・・・」
「頑張ったな。少し痩せたようだな。」
「判るかな?7キロ痩せた。琴羽おばさんが、すごくおいしい料理を作ってくれたから、力は付いたよ。」
「お母さんの料理を食べ慣れているから、琴羽さんの料理も食べられたんだな。」
ハニと琴羽、よく似た二人は看護師としての能力も、料理の腕も似ていた。
決しておいしい料理ではないが、一生懸命に作ったことが判る料理を食べないでいる事はスングには出来なかった。
琴羽の料理は、母の料理を思いだし、不安な異国での受験にスングには力になっていた。
「スア、ただいま。お前の結婚式に間に合ったよ。」
「前期試験で合格するなんてさすがスングね。おめでとう。」
「お前こそ・・・・ちゃんと挨拶するのは初めてですね。スアの双子の兄でスングです。」
スアの横に立っている青年に笑顔で手を差し出した。
「そうですね。イ・スンです。前に会った時は睨まれて、嫌われていると思っていました。」
「無愛想なのはね、ペク家の男子の特徴なの。許してあげてね、スン。」
スンの腕に自分の腕を絡ませたスアの幸せな顔を見て、大学に行かない選択をした双子の妹が、もうすぐ嫁ぐと思うと寂しい気持になった。
「こんなに急いで結婚するなんてさ・・・スンハ姉さんやスンリ兄さんと同じか?」
「ち・・・・違うわよ。ちゃんと結婚してから・・・・・・・もういいじゃない!」
生れた時からずっと一緒にいたスアと、これからは別の人生を歩むことになる。
自分以外の男性の妻になると思うと、複雑な気持ちだけど、大人になるには双子でも別の人生を歩むことを祝わないといけない。
ギルさんが好きだと言っていた時と違って、今のスアの笑顔は昔と変わらないお母さんとよく似た綺麗な笑顔だ。
スアがスンと幸せな顔で話しているのを見ていて、スングは前を見ていなかった。
「あ!スング危ない!」
ドンッ!!
「きゃあー!!!」
立ち止まって電話をしていた一人の女の子とぶつかり、その子は思いっきり尻餅を付いた。
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