言えない恋じゃないけれど(スア) 78
スングとぶつかったその女の子は、大柄のスングに吹き飛ばされたようにして、派手に尻餅を付いた。
「スングったら、スアとスンを見ているからぶつかったのよ。女の子を起こしてあげなきゃ・・・・・・」
母に言われるまでも無くスングは女の子の傍に行き、手を伸ばして助け起こした。
「すみません・・・・前を向いて歩いていませんでした。」
「私の方も、電話に夢中になって・・・・・あっ!」
「君・・・・・」
「同じ飛行機だったのね。で・・・・・結果は・・・良かったみたいね。」
グミとハニが持っている派手な横断幕で、スングに良い事が起きたのだと思ったのだろう。
「君は?」
「私も良かったわよ。今日は、先にこっちに来た友達と合流なんだけど・・・・・・まだ来ていないみたい。」
女の子とスングは韓国語でなく日本語で話をしていた。 たった数ヶ月でスングの日本語力もかなり上がり、母国語と同じくらいに流暢だった。
「帰国したら入学式で会えるといいね。」
女の子は、約束をしていた友達に呼ばれて、足を引きずりながら友達の方に走って行った。
その子の後ろ姿を見ているスングに、スアはにやにやと笑いながら肘で突いた。
「どこで知り合ったのよ、小さくて可愛い子じゃない・・・・日本人なの?」
「智樹おじさんの教えてもらった予備校で隣の席だった子だよ。志望大学が同じなんだ。」
あの子も受かったんだ。 お母さんに似ていたよな、そそっかしくてよく階段から落ちそうになって、なんて言ったかな・・・・・・ 受験生が落ちたなんて言ったら縁起でもない・・・だったかな。
勉強をしていない様に見えて、陰で一生懸命に勉強をしていた。
模試もオレの次に彼女がいつもいて、彼女にけっこう日本語も教えてもらったよ。
「マジでヤバい・・・・・・」
「なに?どうかしたの?スンミも帰国してスングを待っているわ。」
ハニに背中を押されたスングは、父が運転する車に乗った。
来週にはスアの結婚式があり、落ち着く間もなく荷物を纏めて第一志望の大学に行くために日本にまたすぐに行かなければいけない。
車の窓から見えるバスターミナルに、さっき別れたあの女の子が友達と楽しそうに話をしていた。
背の高い友達の中にいて、まるで子供のように小さな女の子。
ピョンピョンと飛び上がるようにして、話をしていたと思ったら、スングに気が付いて両手を大きく振っていた。
久しぶりに会ったグミは、スングの合格が嬉しいのか、後部座席のスングの隣に座り手に持っているスチャンとギドンの写真に話しかけていた。
この二年の間に、年上で結婚をしているキエが好きになり、悩んでいた自分が嘘のように、今のスングは異国の日本で過ごす不安よりも、知り合った女の子と同じ大学で勉強をすることが不思議と楽しく感じた。
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