あなたに逢いたくて 60
スンジョ君の温かな視線が背中に伝わってくる・・・・・・・
ありがとう、愛をくれて
そして・・・さようなら・・・・
スンジョ君が立派なお医者様になることを祈っているからね
私は大丈夫だから・・・・
あなたがくれた大切な命のスンハを、必ずきちんと育てるからね
二人で過ごした日々は、短かったけどすごく幸せだったよ
また元の平穏で心乱すことがないスンジョ君がユックリ勉強の出来る生活に戻るんだね
「オンマ・・・・・痛いの?」
ジョンスと一緒にハニを待っていたスンハが、駆け寄って来ると涙をながしていたハニの顔を心配そうに見ていた。
「おいでスンハ。アッパにバイバイとするんだよ。」
スンハを抱き上げて、遠く離れた場所からハニを見送っているスンジョの方に手を振らせた。
「アッパァ~、バイバーイ」
スンハの所からスンジョの所までは声は聞こえないが、手を振る姿は見えていたのか、小さな身体で一生懸命に手を振るスンハとハニの方に手を振って応えた。
「ハニさん・・・・・このままで良かったのですか?」
「いいの・・・・私はいつもスンジョ君のお荷物になってたのだから。キム先生、先生を利用してごめんなさい。先生にはずいぶんと助けてもらって本当に感謝しています。ありがとうございます。」
懐かしい思い出のパラン大学で、ハニは全ての思い出を終わらせた。
グミは、ギドンから聞いてから、スンハの事を自分ひとりの胸に収めていた。
夫スチャンは持病である狭心症の発作をストレスで発作を避けるために、ギドンと約束した通り、ハニとスンハの事をずっと内緒にすることに決めていた。
玄関のドアが閉まる音に振り向くと、血の気のない顔のスンジョが入って来た。
「お兄ちゃん、お帰り。顔色が悪いけど、具合が悪いの?」
スンジョはリビングのソファーに崩れるように座り込んで両手で顔を覆った。
「ハニに・・・・・ハニに会った・・・・・・」
「そう・・・・元気だった?」
「幸せそうだった。ハニは、もう結婚していたんだ・・・・・・・終わったよ。」
そう言ったきりスンジョは目頭を押さえて肩を震わせて泣いた。
たとえハニが嘘を吐いていても、自分を拒絶している様子を見ては、もう戻る事は出来ないのだと思った。
グミは、スンジョの泣いている姿を初めて見たような気がした。
23歳になっても、母親にとってはいつまでも自分の子供には違いない。
大きな身体の息子スンジョをそっと抱いて、背中をトントンとあやすように叩いた。
いっそのこと、言った方が良いのではないかとも思ったが、ギドンとの約束を破るわけにはいかない。
ハニにもグミが知っていることは伏せてあるのだから。
「スンジョ・・・・・いつか、ハニちゃんの住んでいるところに笑顔で行けるように、あなたはハニちゃんが望んだ医者にならなければいけないわ。今は辛くても、時が経てば思い出に代わるのだから。自分を責めてはいけないわ、ね?スンジョ・・・・・・・」
大きな身体を震わせて泣く息子に掛ける言葉もなく、グミも一緒になって涙を流した。
「スンジョ、とうとう行くのね。」
「ああ、仕方がないさ、これも国のために行かなければいけないのだから。医師免許があるのだから、他の人たちの様に危険な場所に行くわけじゃないんだ。そんなに涙ぐむなよ。」
グミはスンジョに兵役の招集が来てから、スンジョの健康管理に気を配っていた。
あれから三年。
時々、どこか遠くを見ていることもあるスンジョも、少しづつ気持ちの余裕が出て来た。
「スンジョ、気を付けて任務を全うして来なさい。帰って来たら、縁談を・・・・・」
「親父、オレは結婚はしないよ・・・・・・・ウンジョ、お前ならテハン大は絶対に大丈夫だ。頑張れよ。」
「兄貴・・・たまには帰って来てくれよ。」
ウンジョは高校三年になり、いつの間にかスンジョの事を“兄貴”ママ・パパを“お袋・親父”と呼んでいた。
「じゃあ、行ってきます。」
公衆衛生医師として、僻地での任務に就くために家族に見送られて家を出た。
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