あなたに逢いたくて 61
スンジョは今日から三年間の兵役期間に入る。
医師免許のあるスンジョは、軍服を着て銃を持ったりするわけではなく、公衆衛生医師として僻地の村や離島に赴任することになっていた。
ハニと別れて三年。
縁談の話は幾つかあった。
会ってみないかと言われても、会わないまま断った話もあった。
スンジョにとってハニ以外の女性(ひと)は無関心で、お見合いを何度しても決まらなかった。
決まらなかったのではなく決めなかった。
自分の中にいるハニが一番大切な女性で、ハニの代わりになる人はいなくて、諦めきれなかった。
最近のというかこの一週間のスンジョは、とても穏やかにどこか別の空間を見ているように、誰かに微笑んでいる時がある。
そう、一週間前にある人と偶然に会ってあることを知った。
ナ医師と学会に参加した時に、学会会場でキム・ジョンスに偶然に会った。
「ペク・スンジョ、その離島の診療所に行くのか?オレの後輩が三年前にそこから戻ってきたんだ。島の様子とかを聞いておくと早く島民と親しくなれると思うがどうだ?」
とそう言われ、学会の会場でナ医師の後輩の医師を探していた。
「ああ、あそこにいる。おい、お~い!キム・ジョンス。」
キム・ジョンス?まさか・・・・
ナ医師の呼んだ声に振り返ったのは、思ったとおりハニと結婚したはずのあのキム・ジョンスだった。
ジョンスもスンジョに気が付き、お互い顔を見合わせて驚いていると、二人の状況を知らないナ医師が紹介した。
「ジョンス、今度お前が三年前に赴任していた離島の診療所に行くことになった、パラン大病院のペク・スンジョだ。スンジョ、この男がさっき話していたオレの後輩のキム・ジョンスだ。」
そう紹介された時に、顔を強張らせたキム・ジョンス。
スンジョの為に、自分と結婚していることにして欲しいとハニに頼まれて就いた嘘。
必死に頼み込むハニの切実な願いを聞いてあげたいと思ってしまった事を、島を離れてもずっと後悔していた。
「お久しぶりです。キム先生。」
「久しぶりだって?お前ら知り合いだったのか?」
何か後ろめたそうにしているジョンスは、先輩のナの前でスンジョと話しづらそうにしていた。
「キム先生、奥さんとお子さんはお元気ですか?」
スンジョの言葉にナ医師が不思議そうな顔をした。
「ジョンス、お前結婚したのか?言ってくれればお祝いしたのに、それにいつの間に子供まで産まれていたんだ?大人しいのに手は早かったのか?」
「え・・・・いえ・・・・その・・・・先輩・・・あのペク医師と二人だけで、少し話をしたいのですが・・・・」
スンジョとジョンスの二人のやり取りに不思議そうな顔をしながら、ナ医師はスンジョの肩を叩いて、先に帰るという合図をしてその場を二人だけにさせた。
ラウンジで向かい合って座ると、ジョンスはスンジョに頭を下げた。
「ペク・スンジョさん、申し訳ありません。僕はオ・ハニさんとは結婚していません・・・・・・」
ジョンスの言葉に、ハニとジョンスが結婚をしていないのではないかと思っていても、もしかしたらハニが言っている事も事実かもしれないとも思っていた。
スンジョは訳がわからないという表情をした。
「どう言う事ですか?ハニはオレの家を出てから直ぐに、キム先生と結婚していてスンハちゃんという子供が産まれたのではないのですか?」
「違うんです・・・・・スンハちゃんはボクの子供ではありません。僕はスンハちゃんが産まれた時に取り上げた医師なだけで・・・・・・結婚もしていません。」
ハニはなんとなく判ってはいたが、少しでも会えなかった時のハニの様子を知りたかった。
「教えてください、どうしてこう言う話になったのですか?」
「僕が赴任している時、診療所にお腹の中にスンハちゃんがいるハニさんが来たのです。診療所の管理をしているギミさん・・ハニさんのおばあさんの所に。ハニさんは、看護師の試験でパラン大に来ることになった時、自分が前に通っていた大学で、スンジョさんがパラン大医学部にいる。もしかして、偶然に出会った時に、自分の事を忘れて欲しいから、僕と結婚したことにして欲しい・・・未婚で産まれた子供がいては、足を引っ張って迷惑になるから・・・スンジョさんには絶対に立派な医者になって欲しいから・・と言って・・・・・・」
スンジョはジョンスから島でのハニの様子から、どうして妊娠をしたことを告げずにスンジョの前から離れたかったことの理由を聞いた。
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