あなたに逢いたくて 62
全くハニはどうしていつもそうなんだ。
自分の幸せより人の幸せのことばかり考えて。
オレがオレらしく笑ったり怒ったり、自分らしく過ごすことが出来るのは、ハニがそこにいるからなんだ。
人に興味も関心もないオレが、怒るのも笑うのもハニだけだ。
そこにいなければ、本当のオレになれないと言う事が判らないのか?
こんなオレにお前がしたんだぞ。
それに、スンハはオレの子供だろ?
オレがハニ・・・お前に子供が出来たと知って迷惑だと思うのか?
三年前にスンハがオレに抱きついた時は、オレが父親だとスンハは気づいていたのだろうか?
もう、絶対にハニ・・・どんなことがあっても、お前がそれを拒否したとしても、絶対にお前を離さないから。
スンハがオレの子供だと言う事を、お前の口から絶対に聞かせてもらうから。
それが、三年間オレの心を厳冬のようにしたバツだぞ。
「スンハちゃんは、スンジョさん・・・・あなたの子供です。ハニさんは、あなたと別れた後に妊娠に気づいていたのですが、あなたは別の方と婚約中で、伝えることが出来なかったそうです。あなたと添い遂げることが出来ないのなら、あなたから頂いた小さな命を自分の精一杯の愛情で育てたい・・・・・・そう言っていました。そして、スンジョさんあなたのことを、人は冷たい冷徹な男だと言うけれど、本当は淋しがり屋でとても優しい人だからと・・・・・・・」
ウファ看護大学でスンハを見た時、何だかハニを思い出したのはハニが産んだ子供だったから。
あの時に気づいていれば・・・・・・・いや、あの時はオレの勘も狂っていた。
よく思い出せば、まだハニがオレの前からさって半年過ぎた頃だろうか。
ハニの友人のトッコ・ミナ、チョン・ジュリが赤ん坊の写真をオレに見せた。
あの時は、ハニへの気持ちに気が付いたのに、離れて行ってしまい心に余裕もなく、赤ん坊の泣いている顔を見ても何の感情も湧いてこなかった。
スンハと最後に会ってから三年も経っている、覚えているだろうか・・・・・オレの子供なら覚えているだろう、ハニに似ていれば・・・・・・きっとそれでも、判るはずだ。いつでもハニはオレを見ていたのだから・・・・・・
ハニはどんなに遠く離れていても、オレがいるところをすぐに見つけ出せる。
列車の向かい側に座っている年配の女性が、クスッと笑ったスンジョの様子に声を掛けてきた。
「何か良い事でもあったのですか?」
「そう見えますか?」
「あなたは、今とても幸せそうで温かな笑顔だから。」
人からそんな風に言われたことが、産まれてから26年言われたことなどなかった。
「長い間、一緒に暮らすことが出来なかった妻と子供と、ようやく暮らせるようになるんです。」
自分の口からそんな言葉が出るなんて、思ってもよらなかった。
旅行に行くわけでもなく、家に帰るのでもない、これからオレは韓国の兵役法に基づいて公衆衛生医師として、僻地での任務に付くというのに心がフワフワとしている。
ちょうど、高校生の時のハニと一緒に暮らし始めた頃にあった、あの運動会で味わった達成感に。
スンジョは、これから三年間のことを思い、思わず笑みがこぼれた。
電車は駅に到着し、改札を出てそのまま船着場に行くと、真っ黒に日焼けした漁師がスンジョを待っていた。
島に行くための唯一の交通手段は、地元の漁師が所有している小さな漁船のみ。
「連絡をしましたペク・スンジョです。お願いします。」
漁師は、スンジョの顔を見て一瞬驚いたが人懐っこそうな笑顔で照れたように笑った。
「先生は男前だなゃ。ハニちゃんに紹介したいくらいだ。先生、さあ乗ってくだせぇ。日が暮れんうちに島に行かんとナ。」
漁師から聞いた名前、ハニ・・・・・・ハニにようやく逢える。
任務といえまた一緒に暮らせることに、スンジョは期待をしていた。
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