言えない恋じゃないけれど(スア) 最終話

ガタン ガタン キャリーバックを出来るだけ音を立てない様にしてリビングに降りると、早朝にも関わらず祖母と両親とスア以外の兄と姉たちがスングを待っていた。 


「みんな・・・・」 

「黙って行くつもりだったの?」

 「早朝の便だし、昨日の夜ちゃんと挨拶をしたから。」

 「アレはアレ。暫く会えないから朝食は家族そろって食べなきゃ。」

 スンハ姉さんとおばあちゃんがオレに話しているのに、お母さんは無言で今にも泣きそうな顔をしている。 一生会えなくなるわけでもないのに・・・・

 「今日は、お前の好物をお母さんが張り切って作っていたぞ。」 

「お父さん・・・・・」

 お母さんが作る料理が好きなのはオレだけじゃなく、お父さんに姉さんも兄さんも同じだ。 

キャリーバックを置いて、ダイニングテーブルに着くと、よくまあこんなにたくさん作ったなぁと言うほど、大量の玉子焼きと里芋の煮物と豆のサラダが置いてあった。 

まさかと思ったが、スア以外の兄妹が全員そろっているから、その人数分だけ作ったと思い、スングは自分の食べる分だけを皿に取り分けた。 


「スング・・・あの・・・・ちゃんと卵の殻は入れたけど、味がね・・・甘いのが出来たり塩っ辛かったりで、どの玉子焼きも同じ味じゃないの。里芋も煮えていないのと煮えちゃったのがあるし・・・だから全部食べてね。」 

別に卵の殻が入った玉子焼きや、生煮えの里芋の煮物や豆のサラダが好きなわけではない。

 我が家のお袋の味は、コレが頭に思い浮かぶだけ。 


「お母さん有り難いけど、これ全部は食べられないから、みんなで食べようよ。」

 ギョッとした顔の姉や兄たち。 

父のスンジョはいつも通り、普通の顔をしている。 

お母さんの料理は味ではなく心がこもっているから家族の好物。 

この味も6年間は食べられないのだ。 



「本当に見送りはいらないの?」

 「いらないよ。別に永遠の別れじゃないし、空港でお母さんが大泣きしたら恥ずかしいから。じゃ・・行って来ます。」 

迎えのタクシーに乗って、家族に見送られて空港に向かった。

 お母さんが大泣きしたら恥ずかしいなんて嘘だ。 

お母さんの涙にオレは弱いだけだ。 



生れた時は一緒でも、いつかは別の人生を歩む。

 スアの今までに見た事のない程の幸せな顔を見たら、オレもキエさんを忘れて恋愛をしてみたくなった。

 情けない事にまだキエさんへの想いが、オレは吹っ切れていない。

 キエさんから、子供が生まれたとメールが届き、添付されていた3人で写った写真を見て胸がチクリとした。 

彼女の幸せな顔は母としての顔だった。 


空港のチェックインカウンターで並んでいると誰かに声を掛けられた。 

「今日、帰国じゃなかった出発なの?」 

小さな身体をピョンピョンと跳ねる様にして嬉しそうに話す大瀧優花。 

その笑顔と雰囲気がお母さんとよく似ている。 

「ああ、君は?」 

「友達と一緒に帰るの。この時間に偶然に会えたと言う事は、飛行機の便は同じみたいね。大学も同じだし、私達もしかしたら運命の糸でつながっているかもしれないわね。これも何かの縁だと思うから、連絡先を教えて。」

 彼女の言うとおり、運命の相手なのかもしれないが、嫌いでもないから連絡先を交換していると、また誰かに肩を叩かれた。 

「私の双子の兄をよろしくね。」

 スアが新婚旅行に行く飛行機を待っている時、偶然にオレの姿を見つけたらしい。

 ほぼ初対面な相手なのに、二人とも妙に気が合って、止まらない位のスピードで話をしながら連絡先を交換していた。

 優花の友達が呼ぶ声が無かったら、飛行機に乗り損ねるところだった。


 「スング、不安な生活が待っているのに、彼女がいるから大丈夫ね。安心して私はスンと新婚旅行に行けるわ。」 

スングは何も言わずスアの肩をポンと叩いて、自分の搭乗する飛行機に乗る為に、ゲートに向かって歩いて行った。


スンハ夫妻とその子供・スンリ夫妻とその子供・スンミ夫妻とその子供・スンギ夫妻とその子供が、それぞれの家に戻って行き、一番下の双子のスアが高校を卒業と同時に結婚して、その兄のスングが海外の大学に進学をすると、いつも賑やかだったペク家は静かなペク家になってしまった。


ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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