未来の光(スング) 1
言葉の壁に、自分がそれに突き当たるとは思わなかった。
受験本番の3ヶ月前から来日していたし、おばあちゃんの姉のユミおばさんが日本人と結婚していたから、お父さんの従兄弟の智樹おじさんの家に、お父さんとお母さんの予定が合うと日本に来ていたから、会話は勿論読解も自信はあった。
大瀧優花も同じ医学部生だけど、医学生の数の多い大学。
構内で会うと挨拶程度はするけど、夕方家に帰ってからメールや電話で話していた。
「ゴメンね。話が出来なくて・・・・・」 の、メールからいつも始まり、電話で日常の事を話している。
特別な感情を持っているとは思っていないが、ある日に聞いた彼女の噂が切っ掛けだったかもしれない。
「優花ってさぁ~軽い女だよね。」
その言葉をよく理解していなかった。
動きが早くて、直ぐに行動をする事だと思っていた。
「そんな女の子でもいいの?」
「いいよ、重い子よりも軽い子の方が好きだし、オレの母親もそうだったから。」
構内でオレを見つけると、ピョンピョンと跳ねて手を振る優花。
優花は決して近くには来ない。 いつもオレの周りには、留学生が珍しいわけでもないのに女の子が纏わりついていたから。
そんな女の子たちを離すために、優花を見つけると手を振って返していた。
ところがどこでどう伝わったのか、ある日短いメールを貰ってから、優花はオレを避ける様になった。
「さようなら」
そんなメールを貰って以来、こちらからメールを送っても受信拒否されるし、電話は繋がらない。
構内で会えば無視するし、授業の席はオレの視線の範囲にいたが、あれ以来視線の届かない場所に移っていた。
「最近彼女と喧嘩でもしたのか?」
「別に・・・・・彼女でも無いし。」
勝手に優花が訳も無く怒っていると、そう思う事にした。
大学に入って暫くした頃、大型連休で大学が休講になって暇なオレは、のんびりと部屋で過ごす事を決めていた。
琴葉おばさんは、オレが部屋に籠りっきりなのを心配していた。
「スング君、長ぁ~い休みだから、実家に帰ったら?」
「いいですよ、帰らなくて。まだ一ヶ月も経っていないのに帰ったら鬱陶しがられますから。」
「そう?そう?それなら、おばさんは寂しくないわ。」
智樹おじさんと琴葉おばさんは、オレの両親と同じ年で、子供はスンハ姉さんやスンリ兄さん位で、その子供の子供、つまり孫が大学生だけど、学生同士の付き合いが忙しいと言って来てくれないと言っていた。
その孫の代わりにオレの世話を楽しくしていると話していた。
まさか、帰らない理由をしりたくて毎日のように掛ってくる、お母さんからの寂しいコール。
もっとも一番帰りたくない理由は、優花と理由も判らず一方的に無視されてる事だ。
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