未来の光(スング) 2
『さようなら』
さようならは別れの言葉だけれど、明日また会うからのさようならか、それとももう二度と会わないさようならか、その意味が解らない。
言葉の持つ深い所の意味が、オレには理解できない。
面倒だな。
キエさんみたいな大人ならこんな面倒なことはなかったのに。
キエさん、どうしているのだろう。
日本に来てからも、時々『元気にしているか』『勉強を頑張ってね』『ちゃんと食べているか』と、メールで心配をしてくれていた。
会いたいなぁ・・・・・・
スングはたった一度だけ写したツーショット写真を財布から取り出した。
ツワリで苦しんでいた時に、何度か自宅まで送り届けて介抱をしたことがあった。
この写真は・・・・・入院する前だ。この時には、キエさんはオレときっちりと別れて旦那さんと子供の生活に戻るつもりだったんだよな。スアと違って吹っ切れる事なんて出来ないよ。
日本の大学に行くことに決めたのは、キエさんをいつか呼び寄せようと思っていたから。
机の上で携帯電話が、着信を知らせるバイブが振動した。
画面に表示されている電話番号は、記憶にない番号。
だがそれは今思い出していたキエではなく、大学の誰かだと思う番号だった。
「はい、誰?」
<ペク・スング君でしょ?>
「知っていてかけているんじゃないのか?」
<何よ、その言い方。ムカつく!どうして優花はこんな男がいいんだろうね。>
相手は名乗ることはしなかったが、優花の友人たちだと判った。
電話で話をしている人の他に、まだ誰かそこにいるようだ。
「名前くらい名乗れよ。」
<飯倉亜紀よ。話がしたいから出て来れない?ううん、出て来てよ。あんたのせいで、優花がどれだけ深く傷ついたか・・・・電話では言えないわ。とにかく直ぐ出て来てよ。>
こっちの都合も聞かないで一方的に、待ち合わせ指定場所を言って電話を切った。
行かなくてもよかったが、日本に来る前から知っていた優花だし、急にオレを避けだしたことは気になっていた。
何もすることはないし暇だから行ってもいいと言う軽い気持だった。
キエの写真を財布にしまって、上着を着て部屋を出た。
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