未来の光(スング) 3
よく知らない相手に呼び出されて、指定場所まで行く人間だと今まで思ったことが無かった。
それに、別に特別な感情を持っている相手でもなく、ただ初めて異国で知り合った友人だと言うだけにしか思っていない相手が彼女だ。
「いらっしゃいませぇ~、お一人ですかぁ?」
「約束をしているのですが・・・・」
妙に愛想のいい店員の声に、適当に答えて店内を見回すと、奥の方に名前は知らないが、いつも優花と一緒にいる女の子が数人座ってこちらを見ていた。
店員に案内されてその場に行くと、小さくて陰に隠れて見えなかった優花が座っていた。
「みんな・・・・・いいのに・・・・」
「よくないよ。ちゃんと話を聞かないといけないし、優花の事も言わなきゃ。」
「本当だよ。ちょっと、ペク君!」
女数人対男一人。
この組み合わせで一人の女の子が俯いていれば、何も知らない人にしたら別れ話でもめているのだろうと思われるだろう。
「座っていい?」
「ぁ・・・・・」
店員がテーブルを二つ繋げて、人数分椅子を用意すると、優花の友人がスングを優花の正面に座らせた。
「で、話って何?」
「何って・・・・・」
優花は隣に座っている友人の服を引っ張り『いいから・・・』『気にしていないから』と囁いていた。
オレが何かしたのか?
「ペク君さぁ~優花のことどう思っているの?」
「どうって?どうして自分の考えている事を何も関係のないあんたたちに言わなきゃいけないんだよ。」
優花の友人たちはスングの言葉を聞いて、それぞれ≪まぁ≫とか≪ひどい≫とか言っていた。
ストレートに言えばいいのに、言わないで聞き出そうとするそのやり方はスングはあまり好きではないが、裏のあるような言い方をする女の子たちの行動の意味が理解できなかった。
「ゴメンね、みんな、私が元気がないから心配しているの。」
確かに優花は暫く見ない間に小さな身体がさらに小さくなっている。
細い手首はさらに細く、小さな顔はさらに小さく。
「ねぇ、優花が軽い女だって言ったけど、そんな女の子じゃないよ。小学校から高校までは女子高で男の子と付き合ったことも無いのに、ひどくない?」
「そうか?軽いのが悪いとは思わないし、オレはそう言う女の子が好きだけど。」
「ちょっと!下心あって優花に近づいたの?」
「下心って?よく動き回ってフットワークが軽い女の子は好きだし、その方がどんな男だって好きだと思うけど?」
?
何だかおかしな場の空気。
誰かが何か言うわけでもなく、優花をはじめその場にいた女の子たちは吹き出した。
「嘘・・・・・留学生じゃないと思うくらいに成績もいいペク君が・・・・・・軽い女の子=フットワークが軽い・・・・・・」
「おかしくて・・・・・・」
何がおかしいのかスングにはサッパリと判らなかった。
向かい側に座っている優花も、さっきまでの泣き顔と変わり、友人たちと笑っていた。
「ペク君・・・・軽いって・・ペク君の言う軽いってそう言う意味だったの?」
「そう言う意味って?」
誤解だと判った優花の友人たちは、その場にスングと優花を二人だけにして店を出て行った。
「ゴメン、会話とかは判っているけど、まだ言葉の持つ意味が理解できていなくて。」
「難しいからね、日本語は。」
「もっと勉強をするよ。」
優花の笑った顔を見て、胸の奥から温かい物が溢れて来た。
それが何なのかは、まだスングには判らなかった。
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