未来の光(スング) 4
ふたりっきりになると妙に緊張をして来る。
取り敢えずこういう時は、どうしたらいいのだろう。
「ゴメンね・・・・・」
「いや・・・・オレも言葉の意味が判っていなかった・・・・・・」
「私の方が、勝手に一人で落ち込んでいたの。」
「オレだよ、あの時に行っていたヤツの顔を見れば判っていたはずなのに・・・」
「私はスング君が日本語が上手だから、留学生だって言うこと忘れてて、だから・・だから・・・」
小さな顔をスングに向けて一生懸命に謝っている優花は、子供の様に綺麗な目をしていた。
「もういいよ、お互いにどうしてそう言ったのか、どうしてさよならを言ったのかと聞けばよかったんだよ。まだオレの日本語力も完璧じゃないし、もっと勉強をしないといけない。そんな時に優花がいてくれれば・・・・・・あ・・・」
頬を染める優花の顔を見て、スングは次の言葉を言えなくなった。
氷の解けた水を一気に飲むと、グラスに付いていた水滴がズボンの上に落ちた。
「何が冷たい物を頼もうか?」
「いいよ、他に・・他の店に行こうか?」
沢山の女の子と一人の背の高い男の子が、何かもめ事があって解決したからと一人の女の子をと相手の男の子を残して店を出て行けば、自然と人々の注目を浴びる。
「そうだね、何か注目を浴びているし・・・・・・あの・・・私のお気に入りのお店に行く?」
「どこでもいいよ。下宿先から大学までの道しか知らないから。」
「きっとスング君なら覚えているよ。」
「オレが知っている?」
思い出せばなんとなく記憶に残っていた場所。 優花と出会ったブックショップだ。
受験の為に来日していた時、そこのブックショップの入っているビルの一階のカフェでよく買ったばかりの本を広げて読んでいた。
そのカフェで優花と出会ったのだ。
スングはそのビルに本を探したり買うためによく行っていたが、優花は本屋よりも上の階にある予備校に通っていた。
予備校生が降りてくると、空いていたカフェは一気に満席になる。
相席しても座席確保が出来なく困っていた時に、小さな身体でバックに沢山の本を摘めてフラフラと歩いている時に、立ち上がったスングとぶつかった。
「ゴメンなさい・・・・気が付かなくて。」
「こちらこそ、廻りを見ないで歩いていたから。」
床に落ちた本を拾い集めて、その時はまだ会話も挨拶程度だった。
ブックショップの下のカフェに行くたびに新しい本を買うことも無かったし、宿泊している智樹おじさんの家にばかりいてはよくないと気晴らしに行くこともあった。
優花は何人かの友人と座っている訳でもなく、大体が一人で座っていた。
「うちね、両親も兄も姉も医者だから、私も医者にならないといけないの。」
どこか自分の家と似ている優花と、割と共通点が多くて予備校が終わる頃に時々会っていた。
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