未来の光(スング) 5
優花を自宅方面に向かう電車の駅まで送ると、呼び出された時の足取りとは違いスングも足取り軽く帰路に着いた。
呼び出しがあって出かけた時とは違い、心も身体も足取りも軽く、小さな子供のようにスキップをしたい気持ちになっていた。
「ただいま帰りました。」
家の中に入ると、智樹おじさんの妻の琴葉が誰かと片言の韓国語を交えて電話で話していた。
きっと、母のハニと話しているのだろうと、なんとなくすぐに分かった。
オレの事をお袋に報告でもしているのだろうか?
帰って来たことを知らせる為に、電話のあるリビングに少し顔を覗かせると、琴葉が通話口を手で押さえた。
「ハニさん、スング君帰って来たわ。」
掌をパタパタと振って、自分を呼んでいる琴葉の傍に行くと受話器を渡された。
「お母さんがね、スング君が連休に帰って来ると思ってたって・・・・・電話でもいいから話がしたいって・・・・・・」
「すみません・・・・・どうかしたの?お母さん・・・・・」
<寂しいの・・・・スング帰って来て・・・・・>
「な・・何を言っているんだよ、いい歳をして。お父さんもいるし、スンスク兄さんもいるしミレもフィマンもいるのに。離れにはおばあちゃんもいるじゃないか。」
<ダメ・・・・スアがいなくなったら家の中が静かで・・・スンスクも今年は高校三年のクラスを持っているから、帰って来ても直ぐに部屋に入っちゃうし・・・・家の中には、お父さんと二人っきりなんだもの・・・・・>
ふたりっきりの方がいいんじゃないのか?
孫もいるのにいつまでもラブラブで、子供がどんな風に見ていたのかなんて知らないだろう。
お邪魔虫みたいに、オレとスアは姉さんや兄さんに育てられたようなものだよ。
「夏になったら帰るよ。今はまだ大学に入ったばかりだし、土地勘もないから色々と出て行きたい所もあるんだ。卒業してもすぐには帰れないかもしれないし。」
<本当?本当に夏休みになったら帰って来てくれるの?>
「ああ、帰るよ。帰るから・・・」
<帰って来たら、お母さんと沢山話をしてね・・・・>
「判ったよ。判ったから電話を切るよ。」
<それとね・・・・・キエさんに、二人目の赤ちゃんが出来たんだって>
胸がドキンとした。 お母さんはオレがキエさんにどんな気持ちを持っていたのかなんて知らない。
琴羽さんは、オレがお母さんと話をしているからと遠慮をして別の部屋に行ってここにはいないが、動揺したのを知られてしまう所だった。
「そう・・・・・会ったら伝えて・・・身体を大切にって・・・・・じゃあ、切るよ・・電話代も高いから。」
吹っ切れたと思っていた。
優花の笑顔を見て、もうキエさんの事は忘れようと思っていた。
まだ駄目だ・・・オレはまだキエさんの事を忘れられない。
0コメント