未来の光(スング) 20
大きな声を出して、おまけに長い時間ベンチに座っているから、遊んでいる子供たちもオレ達の方を見て気味悪がっていた。
「場所を移動しよう。」
「でも・・・話が・・・・」
小柄な優花の手を強引に引っ張って歩くと、まるでオレは誘拐犯のようにも見える。
「あの店に入ろう!」
「店?・・・そこは・・・・」
スングに手を引かれて入った所は、女性ばかりで男性はほんの数人。
ふたりがそこに入ると一斉に視線が注がれ、付き添いのいる人達はヒソヒソと話していた。
殆ど女性で、それもお腹の大きな人が何人か椅子に座っていた。
「えっ!」
「もう!!スングったら!ここは産婦人科だよ。」
「外から見たら丸テーブルに座って飲み物を飲んでいる人しか見えなかったから。」
「いいから・・・・・いいから早くここから出ようよ。」
勢いよく入って来た二人の様子を見て勘違いをされてもおかしくなかった。
背の高いスングに対して子供みたいに小柄な優花は真っ赤な顔をしているし、スングは焦っているような顔をしていたから。
「優花が産婦人科の病院だと早く言わないから。」
「言えないでしょ!スングが凄い勢いで引っ張ったから。」
公園近くに産婦人科だけではなく、ちゃんとしたカフェもあるのに、何を焦ったのかスングは顔を上げて一番最初に目に入ったのが、産婦人科のガラス越しに見えるラウンジだった。
「こういう時にお母さんの血が出るんだよな・・・・・完璧にお父さんの血を受け継いでいたら、こんな失態は無かったのに・・・・・・」
顔と頭脳はそっくりそのまま父のDNAは受け継いだが、焦ると母のDNAが僅かに表れてしまう。
「お母様って、そそっかしいの?」
「そそっかしいと言うよりも、お父さん以外何も周りを見ていないから失敗ばかりしているよ。そんなお母さんをお父さんは心配で一時も目を離さない・・・・・・」
「へぇー、いいご両親じゃない。」
「理想の両親だよ・・・・・でも寂しかったな。兄弟が多くて、両親共働いていたのもあったけど、兄や姉たちに子供が生まれるとそれに掛りきりになるし・・・・・・そんな時だよ・・・・・」
「そんな時?」
公園から離れた場所では、落ち着いて座って話すベンチも無ければ、カフェに入って話す気にもならない。
「オレの過去を知りたいんだよな。」
「うん・・・・・・」
スングの知らない過去を知りたいが、聞くのも怖いし聞いておかなければ余計に気になる。
「お母さんの親友の娘と付き合っていた・・・・・」
「なぁ~んだ、そんな事!それなら・・・・」
優花を見るスングの目はいつもと違って、厳しい目だった。
「彼女・・・オレよりも10歳年上で既婚者で・・・・・それに妊娠中だった・・・・」
最後の言葉に優花は衝撃を受けたのか、足が震えその場にしゃがみ込んでしまった。
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