未来の光(スング) 21
ショップが何軒か並んでいるが、繁華街でもなく住宅街で人の通りが少なくてよかった。
両脇に手を入れて立たせるのに、小さい優花は力をいれなくても簡単に立ち上がらせることが出来る。
「オレの過去を聞いて嫌いになった?」
青ざめて引きつった顔が、縦に振るのか横に振るのか怖かったが、このタイミングで言った方がよかったと思うかもしれない。
「いいよ。嫌いになったと言っても。」
「その人のお腹にいた子供はスングの子供?」
ピョンピョンと飛ぶようにいつも話す優花の言葉は、飛ぶどころか震えていて小さな声だった。
「違うよ・・・・その人が妊娠中に付き合っていたけど、それまではお母さんの親友の娘で、小さい頃から知っているお姉さんとしか思っていなかった。さっき言ったと思うけど、兄さんや姉さんと年齢がその女(ひと)は近かったから、あこがれの女性で初恋の人。妊娠中の精神的に不安定な時に、偶然傍にオレがいただけで・・・・・何となく付き合った。でもそれも数ヶ月だけの付き合いで、結局は旦那さんの元に帰ったよ。」
「振られたの?」
「振られたよ、オレの初恋は振られて終り。日本に来ることにしたのはその人と知らない人の中で一緒にいたいと思っていた時期に決めたけど、結局は振られたからその初恋と決別する為でもある。」
「泣いた?」
「泣かないよ。オレは泣いたことがないし男だから。」
涙をこらえているのだろう、暫く下を向いていた優花は唇をギュッと噛んでスングの顔を見上げた。
「私、スングにどんな過去があっても離れない・・・ううん、離さないから・・・どこまでもスングに付いて行くよ。」
優花はスングが隠しておきたい過去を話してくれたことはショックだったが、気になる事を後から聞くよりはいいと思う事にした。
「その人と・・・・キスだけ?」
「そ・・・・それは・・・・・」
「スングの初めての人だったの?」
「・・・・・・ん・・・・まぁ・・・・」
「何回したの?」
「回数も言うのか?相手は妊婦だし・・・・・そんなに・・・・」
「複数回・・・ってことだよね・・・・」
「優花にしか言っていないんだから、これ以上言わせるなよ。もう、優花以外は付き合わないから。」
大人の女性と付き合ったのだから、それなりの事はあっても仕方がないと思って割り切っても嫉妬心は消えなかった。
「私と・・・・する?」
「はぁ?冗談を・・・・・」
「本気。その人背は高かった?」
「高かった。」
「キスをする時、私は背伸びをしても届かないし・・・・その・・する時にうまく行かなかったら、結婚しても・・出来ないと・・・」
「バーカ。そんなことをしたいから結婚をしたいんじゃないよ。優花とずっと一緒にいたいから結婚をしたいと言ったんだ。今日初めてキスをしたのに、いきなりそんな誘いをするなよ。」
言う勇気に、聞く勇気。
赦してもらう不安に、赦す不安。
さっきまで不安だった優花の顔が、いつものスングに戻ったことに安心したのか、電柱に止まる蝉の様にしっかりと腕に掴まっていた。
「スング・・・・結婚したいと言ってくれてありがとう。一緒に勉強を頑張ろうね。」
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