未来の光(スング) 22
優花との付き合いを許されてもらってはいても、恋人でもなくただの気の合う友達の様な付き合いを始めてからから3ヶ月が過ぎた。
スングも日本に来てから数人の友達は出来たものの、一番親しい人は優花だけだ。
休みのたびに二人で会って、一緒に食事をしたり、歩いたり、映画を観たりしていた。
鬱陶しい梅雨も明け、暑い陽射しを避けながら日陰を歩く二人は、身長差があって人々の注目を浴びる。
こんな事はもう慣れっこになっているくらい、いつも一緒に行動をしていた。
優花の友達たちは、当然二人は恋人として付き合っているのだと思っているが、結婚を意識して付き合っているとは思っていない。
スングの長い腕にしがみ付いてぶら下がっているように歩く優花。
小さな身体で背の高いスングを時々見上げて、笑いながら話をしている微笑ましいふたりだ。
慣れない生活にもかなり慣れたと思ったら、いつの間にか来月には長期休暇がある。
その長期休暇には、優花を連れて半年ぶりぐらいに帰国をすることになっていた。
その買い物に、朝からスングは優花に付き合って荷物持ちをしている。
よくお父さんが言っていたな。
「お母さんの買い物に付き合うのは苦手だ。」
沢山買うわけでもないのに、朝出掛けると夕方まで帰って来ない。
そんな愚痴を言うお父さんに、スンハ姉さんにスンリ兄さんだけではなく、スアも一緒になってよくからかう。
「他の男(ひと)にお母さんがナンパされたら心配でしょ?」
「お母さんをナンパするヤツがいる訳ない。そんな物好きがいたら会ってみたいものだ。」
その物好きが自分だと言う事もお父さんは判っているし、お母さんがお父さん以外の人に声を掛けられても相手にしない事も知っている。
「ねえ、あと1件・・・・・寄ってもいい?」
「まだ買うのか?優花に合う大きさの物は向こうにも売っているぞ。」
「薬屋さんに行きたいの。」
「薬屋なら向こうにもある。」
「だめなの・・・・私、多くて・・・・日本のじゃなきゃダメなの。」
「何が多いんだよ。向こうで合う物は見つかる。」
優花は赤い顔をして、スングの腕を引っ張って耳元を自分の身長に合わせる。
耳元で話したいことがあると、いつもこうして背の高いスングをしゃがませる。
「あのね・・・・生理・・・・量がすごく多くて、いつも使っているのじゃないとダメなの。前に韓国に行った時、無くて困ったの。」
隠し事も出来ない優花でも、自分の生理のことは言いにくいし、スングも言いにくそうにしている優花の言いたい事に気が付けば、こんな風に聞き出すことも無い。
品物を探している間、傍で見ていては嫌だろと思い離れて立っていた。
何気無く外を見ると、お腹の大きなキエとどこか似ている若い母親と、キエが生んだ子供と同じくらいの赤ちゃんが乗っているベビーカーが店の外を通って行く。
優花を大切にしたい気持ちはあるがキエへのあの時の思いは本物だった。
「スング・・・・赤ちゃんが欲しいの?」
優花に声を掛けられて、自分が誰を見ていたのか気が付いたと思った。
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