未来の光(スング) 24
湿気のある日本の夏。
この暑さに耐えるのは結構つらい。
空港行きのバスから降りると、ムッとして一気に汗が出て来た。
「タクシーでこれば良かったね。バスの中がエアコンが効いていたから、ロビーまでは我慢できるよね。」
「そうだな。」
優花はその小さな身体に合わない位の大きなキャリーバックを、バスの収納庫から降ろされると、次の人に邪魔にならない様に直ぐに歩き出した。
「持ってやるよ。」
「ありがとう!」
「いったい何がこんなに入っているんだ?数日分の着替えだけでいいだろう。ホテルのコインランドリーとクリーニング店に持って行けば、自分の身体に合った大きさのキャリーバックを持って来れただろう。」
こう言った後に来る優花の笑顔にオレは弱い。
「だってぇ・・・・減らそうと思ったけど、どれもいる物ばかりだし・・・・これでも随分と減らしたんだよ。スングの荷物が少なすぎだから、そっちの方がおかしいよ!」
ディバック一つと小さな手荷物ひとつ、それがスングの荷物だ。
「オレは実家に着替えとかがあるから、必要な本とおじさんから預かった症例集で十分なんだ。」
「ねぇ・・・・・私の泊まるにホテルに来てくれるよね。一緒に来たのに別々の所で泊まるんだもの・・・・・・」
「結婚を許してもらったわけでもないし、オレの親に紹介する前に一緒には泊まれないだろう。」
「部屋は別でも一緒のホテルに泊まってくれれば・・・・・・・・」
優花の言う事も判るが、部屋は違っても同じホテルに泊まることにすれば、お母さんが付いて来て余計な事をしかねない。
お父さんに優花の事をあらかじめ話して、自分の考えと今後の事を決めてからじゃないと、おばあちゃんから受け継いだお母さんが起こす余計なお世話が始まってしまうから。
優花のキャリーバックを預けて、チェックインして出発ゲートに向かい、まるで新婚旅行みたいと言ってはしゃいでいる優花を見ると、本当にそうなればいいと思える。
お互いの両親に結婚を許されても、優花が願うように結婚が出来るのはまだ先だ。
お父さんは許してくれるかもしれないが、お母さんが反対するのが目に見えている。
オレ達子供の親が自分だと判っているはずなのに、お父さんの血を引いているだけでもお父さんの一部のように思っているから。
スンミ姉さんがヒョンジャ義兄さんと結婚をしてアフリカに行く時は大変だったと聞いた。
付いて行くと言いだして、お父さんがどう止めるのかと待っていたら、さすがにあのお父さんだ。
「ハニはそこにオレがいなくても平気だとは思わなかったな。
残念だよ、これでオレ達の関係は終わりか・・・・・・・」
お母さんはお父さんから離れては生きて行けないことをよく知っている言い方だ。
その後もヒョンジャ義兄が海外の勤務地が変わるたびに、スンミ姉さんも付いて行くから『寂しいから離れないで』と言って大騒ぎをしているお母さん。
何人子供がいても、どの子も自分のそばから離したがらない。
着陸のアナウンスが聞こえると、喜んでいる優花とは対照的に、スングは母に優花と結婚をして日本で暮らしたいと言ったら、どんなことを言い出すのかが心配で気持ちが落ち着けなかった。
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