未来の光(スング) 25
飛行機が着陸する少し前から、優花の表情が急に暗くなってきた。
二人だけで一緒に飛行機に乗った事が無いから、この時のスングは優花が飛行機が苦手なのだと思っていた。
「大丈夫か?」
「ちょっと・・・・・不安・・・・・」
白くて小さな手はギュッと握られ、唇をかみ額に汗がにじんでいた。
「スング?」
「手を握っていてやるから安心しろ。」
小さな優花の手は、いつもとは違って冷たかった。
車輪が滑走路に降りた瞬間、ガクンと機体に衝撃を受けると、目をギュッと瞑った。
安全ベルト着用ランプが消えて、手荷物を持って順番に降りて行くのを待っていた。
「大丈夫か?もう着陸したから怖くないだろう?」
「・・・・・・・・・」
「優花?」
「・・・・・なんかね・・・・・めまいがするの・・・・どうしたんだろう・・・」
外に出て空気をすれば良くなるだろうが、夏の休暇の旅行で飛行機は満席。
特に背が低い優花にしたら、顔が前の人の背中辺りで呼吸もしづらい。
「飛行機を降りるまで頑張れるか?」
「無理・・・・・もう・・・」
優花はそのままスングに寄り掛かる様に意識を無くした。
「すみません・・・・CAの方・・・連れが・・・気分が悪くなったので、先に降ろしてもらえませんか?」
にもたれて目を閉じている優花を見て、誰もそれに反対する人はいなかった。
優花のカバンを肩にかけ、抱き上げた優花の顔は青白く冷や汗をかなり掻いていた。
飛行機に乗る時は元気で、興奮してやたらと話しかけていた。
CAに救護室を教えてもらい、常勤している医師に倒れるまでの優花の様子を話した。
「妊娠の可能性は?」
国際線で来たから新婚旅行と間違えたのだろうか。
「100%ありません!」
スングの力の入った声に、医師も看護師も驚いたが、その言い方がおかしかったのか笑いをこらえていた。
「脈は速いが、問題ないでしょう。きっと飛行機酔いでもしたのだと思うよ。迎えの人とかが来ているのだろうか?」
「父が・・・・・迎えに来ています。父に連絡をして、待っていて貰います。」
ビタミン剤の点滴を打つと、少し顔色が戻り冷や汗も止まっていた。
頬に触れると温もりも戻り、もう安心出来るくらいだ。
「スング?・・・・・・」
「大丈夫か?飛行機の中で倒れたから・・・・動けるのならユックリ起き上って暫く座って様子を見ていよう。今からオレのお父さんに連絡をするから・・・・・」
スングの服の裾を引っ張る優花の顔がまた変わった。
「・・・・お父さんって・・・・怖い人なんだよね・・・・琴葉おばさんがそう言っていたから。それを聞いていたから怖くなって・・・・・・緊張していたら気持ち悪くなって来たの。」
また琴葉おばさんがお父さんの事を違った言い方で言ったんだな。
お父さんは確かにお母さんがいないと無愛想で怖い感じに見えるけど、そうじゃない事を琴葉おばさんは知っているはずなのに。
事前に優花は琴葉に、スングの家族の話を聞きに行っていた。
その時に聞いたスンジョの事は、こんな風に話していた。
「何を言っても表情を崩さなくて、うちの旦那様と正反対の人なの。」
確かにスンジョと智樹の外見は双子と間違えるほど似ているが、智樹はスンジョとは違って優しく微笑んで人と話していることが多い。
初めて結婚を考えている相手の親に会う緊張もあって、優花は不安もあって倒れたのだった。
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