未来の光(スング) 31
店の机をくっつけて大きなテーブルにしてクロスを掛けると、そこに並べられた大量の料理に優花が目を丸くした。
「人数も多いけど、うちの兄妹はよく食べるんだ。もし欲しい物があったら遠慮をしないで取らないと、何も食べられないぞ。」
「う・・・うん・・・・」
とは言っても、優花は食が細くて一度には食べられない。
遠い場所に食べたい物もあったが、立ち上がって手を伸ばすことには、さすがに初対面では気が引けた。
「ほら・・・・これが食べたいのだろ?」
「うん・・気が付いてくれたんだ・・・」
「目がそこから離れなかったからな。何か飲むか?」
「ん~~~ビール・・・飲みたい。」
「お前、飲めるのか?」
「多分・・・・飲んだことないけど、大人の集まりにはやっぱりお酒じゃない・・・」
「まだ未成年だ・・・・日本の法律ではダメだろう・・・」
「ちょっとだけ・・・・」
身内の集まりだから、まぁいいだろう。
コップに3分の1ほど注ぎ入れると、優花はチビリチビリとビールを飲み始めた。
最初は苦かったのか、しかめっ面をして飲んでいたが、目を瞑ってぐぃっと一気に飲み干した。
「おい・・・・・・一気に飲むなよ。」
「だいじょーぶ・・・・・」
呂律の回らない話し方ではあったが、心配はないと思っていた。
「優花さん・・・・」
「は!はい!!」
立ち上がって大きな声で返事をした優花の様子に、ペク家の兄妹たちはおかしくて大きな声で笑った。
「料理って・・・・何がお得意?」
ハニは未来の嫁になるのではないかと思い、優花が出来る得意料理を聞きたかった。
ペク家に来た嫁ソラとマリーは料理が出来ない。
それ以前に、ハニ自身が料理が苦手だ。
全くできないわけではないから、それはそれでいいのだが、ペク家の子供たちの母として伝えないといけないと言う使命があった。
その使命は、グミから受け継いだわけではなく、ただハニが決めただけの使命。
「た・・・甘い玉子焼きが・・・・一番得意です。」
「玉子焼き?甘い玉子焼き?」
ペク家の子供たちとスンジョは、ハニの嬉しそうな声と優花の恥ずかしそうな声で、ある種の不安を感じた。
「はい・・・・・でも・・・殻が入ってしまって・・・・・」
ゴクンと言う唾を飲みこむ音が、静まり返った店内に聞こえた。
「いいのよ!それでいいの!うちの家族は、その卵の殻の入った甘い玉子焼きが好きなの。」
「そうなんですか?」
「そうなの・・・・あとは煮えていない里芋に、生煮えの豆サラダ・・・・・卵の殻は必ず3つね!」
「偶然ですね・・・・卵の殻は不思議と毎回3つで、里芋はいつも煮えていないし、豆も生煮え・・・・・・それがスング君の好きな食べ物なんですか?」
違うとペク家の子供たちは心では叫んだが、それを声にすることは出来ない。
幼い頃に母が勘違いしている子供たちの好きな料理について抗議をしたことがあったが、母を無条件で愛している父には受理してもらえることはなかった。
『お母さんが一生懸命に作った物に、文句を言うな。全部食べろ・・・』と言われるのだった。
「で、スングと優花さんは結婚前提の付き合いをしているの?」
ペク家の長女のスンハが、兄弟代表として聞いて来た。
「結婚と言うか・・・・・優花の両親が、実家に帰った時に相談をして来るようにと・・・・・・」
兄弟と両親の視線を受けて、隣に座る優花の手をしっかりと握った。
「優花と大学を出たら結婚をしたいです。それは優花の両親に伝えていますが、条件として優花は一人っ子だから大瀧家の人間になる事だと・・・・・・・お父さん・・・お母さん・・・・許してくれますよね?」
それまでいい感じの空気が流れていたが、一気に重苦しい空気に変わった。
0コメント