未来の光(スング) 34
誰もいない家の玄関の鍵を開けると、この数年でこの広い家でスンジョとハニが二人でいる時が多くなって来た。
「狭いと思った時もあったけど・・・・・こうして見ると結構この家は広かったんだな。」
「スンジョ君・・・・・」
リビングのソファーも、ここでハニと暮らし始めたあの高3の頃から2回買い換えた。
革張りのスンジョとハニの指定の場所に腰かけると、スンジョは階段の方を見上げた。
「何か飲む?」
「ぁあ・・・」
何か飲むとハニが聞いて、何が飲みたいのか聞かなくても、スンジョが飲みたい物は決まっている。
もう何十年もこの香りは変わらない。
「ハニ・・・来週・・・出張があるんだけど、一緒に行かないか?」
「出張?また私忘れていたみたいね。」
「いや・・・今日、大学に行って決まったんだ。夫婦同伴で・・・・・・」
「どこの大学?」
「・・・・・・パスポート、出しておけよ。」
「海外?」
「智樹の所に泊まるから・・・・・スングが世話になっているから礼を言わないとな。」
「・・・・・・・・・」
「それから、優花さんのご両親に会うよ。」
「スンジョ君!」
ハニは判っていた。
スンジョが何かを決めた事を。
ただ、それを口にすることがハニには出来なかった。
「お前が、スングを優花さんの家の婿養子にするのを嫌がる理由は・・・・・・・オレだろ?」
「・・・・・・・・・・」
「お前はオレしか好きになれないのと同じで、子供の中で一番スングが好きなことは知っていた。オレがお前とよく似たスンミを一番可愛いと思っていたのと同じで、スングはオレと一番似ている。双子のスアよりもお前はスングを一番信頼していたし、オレが嫉妬するくらいに優しい目でスングを見ていた。許してやろうよ・・・・スングが好きになった女の子なら、きっと幸せになれるよ。オレがハニを選んで幸せなのと同じだ。」
何も言わずスンジョはただハニを抱きしめた。
ハニにとってどの子供も自分の血を引いているから同じように好きなことは判っているが、スンジョ自身スングを見ると40年以上前の自分と本当に似ていると思っていた。
あの時の自分と今のスングと違う所は、性格が自分より良い所だ。
スングは自分を犠牲にしても、相手を救おうとするし人を憎むことも非難することもしない。
素直に人に対して感謝の言葉を言える代わりに、自分の本心を隠してしまう。
「ハニ・・・・・ハニがスングと優花さんの事を反対すると、スングは優花さんを捨ててもハニの所に戻って来るけど、心を無くしたスングをお前は一生守って行けるか?オレも、仕事を辞める時期に来ているから、これからの残りの人生をハニと二人だけで過ごしたいと言う願いをお前は叶えてはくれないだろうか?」
スンジョのシャツに付く染みは、ハニの今の気持ちの涙だ。 冷たい言葉しか言わなかったスンジョの、知り合って40年以上経った中で一番温かくて優しい声と言葉に、涙が止まらなかった。
「ハニとこの家で暮らし始めてから、ようやく二人だけの時間が出来たんだ。お前が憧れていた恋人期間を、残りの人生を一緒に恋人みたいに過ごさないか?」
「・・・・・プロポーズみたい・・・・」
「プロポーズか・・・・・そう思ってくれればそれでいいよ。プロポーズさえ真面(まとも)に言わなかったからな。」
ハニはスンジョから離れると、そっと指で涙を拭いて、昔と変わらない笑顔でスンジョの顔を見た。
「スンジョ君の今のプロポーズ・・・・・・お受けします・・・・」
スンジョの両手が優しくハニの頬を包んだ。
「生れた時は別々だったけど、最期の時はハニと一緒だから。今までオレを愛し続けてくれてありがとう、これからも残りの人生ハニだけを愛し続けるよ。」
スンジョの優しい言葉を聞き、ハニはニッコリとほほ笑むとその笑顔に今までで一番優しい顔でスンジョは答えると、静かにハニと唇を合わせた。
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