あなたに逢いたくて 64
キラキラと輝く目で元気よく診察室に入って来たスンハとスンジョは目が合った。
スンハはスンジョが最後に見たころよりも、ハニとよく似た澄んだ目の愛らしい女の子に成長していた。
ニッコリと笑ったスンハは、自分の事を覚えているのか判らない。
パラン大で会った時はまだ幼くて、ふっくらとした手足をしていた。
あれから三年が過ぎて、少しお転婆な感じが、高校生の時に出会ったハニの壊れている自販機を蹴った光景を思い出す。
玄関の方から何か言いながら、ギミがスンハを追いかけて来た。
「スンハ!診察室に来たらダメだと言っただろ。ちゃんとペク先生に挨拶をしたかい?」
「したよ、ねぇ~。」
愛くるしい顔でオレの顔を見ると、胸から込み上げてくる物があった。
「オンマはどうした?一緒に帰って来たんだろ?」
「オンマはガミジィのオシッコを採って、それからヤマバァに湿布を貼って、魚屋のおばちゃんに半島で買って来た薬を持って行ったよ。オンマはね、看護師さんなんだよ、ペク先生。」
幼いスンハが伝言をしっかりとすると、ハニより頼りになりそうに思えた。
「先生、オンマは美人だから惚れたらだめだよ。オンマはアッパを世界一好きなんだから。」
口を開くと、その話し方が自分の母親グミと似ていると思った。
「スンハ、あっちに行って大人しくしてるんだよ・・・・先生、すみませんねぇ。あの子はひ孫のスンハと言うんだ。」
「いや・・・いいですよ。かわいい子ですね。」
「かわいいかもしれんけど、孫で看護師の母親よりも覚えが良くて、スンハの方がこの島の住人の病気の状況を全部知っているんだけど、それがまた可愛気がなさ過ぎて・・・・・・」
玄関のドアがパタンとしまる音がして、スンハが誰かと話しているのが判った。
「ハニが帰って来たようだ・・・・・・・先生、あとは孫がそのノートの説明をしてくれると思うから、呼んで来ますね。」
ギミが診察室から出て暫くすると、廊下を歩く足音が近づいて来た。
開く直前にスンジョはドアの方に背を向けて白衣を羽織った。
「こんにちわ、初めまして看護師のオ・ハニです。半島に薬を取りに行った帰りに、導尿と湿布の交換と薬のお届けをして来ました。」
スンジョがゆっくりと振り返って、挨拶をしようと手を差し出すと、薬をワゴンの上に置いてその手に触れようとしてハニは顔を上げた。
「!!」
「初めまして?忘れたのか、オレを。」
「ス・・・・スンジョ・・・・ペ・・ペク先生・・・・・・」
スンジョはハニが自分を<スンジョ君>と言わず、ペク先生と呼んだことに、自分との距離があることを実感して胸がズキッと痛んだ。
「どうして・・・・どうして・・・・おばあちゃん教えてくれなかったから・・・・・・」
いつもは赴任して来る医師の名前は事前にハニにも教えていたが、何故かスンジョが来ることどころか新しい医師が赴任して来るとしか聞いていなかった。
「変わらないな、ハニは。」
三年ぶりに聞いたスンジョの声に、今までの忘れようとして努力していた箍が外れて、押さえていた思いが溢れそうになって来た。
「そうかな?私、もうすぐ27歳になるんだよ。一生懸命勉強して看護師にもなれたし、昔みたいにドジでもなくなったんだから。ペク先生は前よりずっと素敵になったね。私・・・・・・・私・・・・・・」
「聞いたよ、勉強を凄く頑張って看護師の試験に一度で受かったんだってな。」
スンジョはあの辛い別れから三年、最後にハニに触れてから五年経っても変わらない柔らかな頬が今はすぐ手が届くところにあると思うと思わず無意識に触れていた。
ハニもスンジョの大きな手が頬に触れて来た時、身体を電流が流れるように感じた。
そのスンジョの手からそっと離れるように、後ろに下がった。
「私・・・・・結婚し・・・・・・」
「キム・ジョンスから聞いたよ。看護師になるための試験も、すごく頑張ってしていたと教えてくれたのも彼だよ。それに、結婚はしていないんだろ?三年間また一つ屋根の下で生活をするんだ。スンハもオレと似ているしハニとも似ている。このままずっと隠し通せる事はできないんだ、本当のことを言ってくれないか?」
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2016.02.24 14:32
2016.02.24 14:00