未来の光(スング) 45
「使ってもいいけど・・・・・・出来ない・・」
「出来ない?」
「アレが来ちゃったから・・・」
「アレ?」
バシンといきなり優花はスングの肩を叩いた。
「そんな顔しないでよ。来ちゃったと言えば分るじゃない・・・・・・でね・・・・・今日はホテルに静かにしていたいの。量が多いから、外も暑そうだし貧血で倒れそうなの。ごめんね・・・・・」
「いいよ、じゃあ・・・夕方、オレん家に行くか・・・荷物を片付けたら、タクシーで行けば15分くらいだから。」
夏の暑さに弱いのと生理の血の量が多い優花は、普段でも初日は外に出ない事が多かった。
知らない土地で気分が悪くなっては、いくらスングが付いていても不安だろう。
夕方までの長い時間何をして過ごしたら、時間を潰すことが出来るのか、考えてもいいアイデアが浮かんでこない。
「何しよう・・・・・」
「時間を潰すことは優花が生理になったから出来ないし。」
「生理!普通、男の子が彼女のそういう事を口にするの?」
「オレの家族は、ある意味普通じゃないからな。少しの間一人でいられるか?」
「どこに行くの?」
「おじさんの会社が近くにあるから、そこに行ってゲームを借りて来るよ。」
「ゲーム?」
「玩具メーカーで主流がゲームだから、新作ソフトと本体をよく借りに行くんだ。行って来るよ。」
本当は一人でいると寂しくて仕方がないのに、それを隠してニコリと笑いスングに『いいよ』という顔を向けた。
「おじさん、すみません。こんなにいただいて。」
「いいよ。幾つもあるんだし、向こうに帰ったらデートに行かない時にでもやって、感想を聞かせてくれよ。」
新作ゲームと、デモ用のソフトを叔父のウンジョから貰うと、急いでハンダイのビルから出て行った。
久しぶりに感じるこの暑い街中に、慣れない土地の体調が万全ではない優花が出れば本当に倒れてしまうだろう。
薬局によって、優花の為に造血作用のある薬を薬剤師に相談していた。
「スング?」
その声に、心臓がドキンとした。
「キエ・・・さん・・」
お腹の大きなキエが、スングと別れた後に生れた子供を抱いて立っていた。
「大きくなったでしょ?名前ね・・・・スングが前にこんな名前がいいなって言っていた名前にしちゃった・・・キョン・・・オンマの大切なお友達・・・」
まだ幼くて話すことは出来ないが、スングの顔を見てニッコリと笑った。
「夏の休暇で帰って来ていたの?」
「ん・・・・・」
「そうなの・・・・今度の妊娠はツワリも酷くなくて、順調なの・・・どこかでお茶でも飲まない?」
キエへの気持ちは消えたと思っていた。
初めての恋、初めてのキス、初めての・・・・・
思い出はスングの中でまた動き出そうとしていた。
「すみません・・・オレ、付き合っている女の子がいるから。彼女を両親に会わせたんです。」
それがどういう事なのかキエにも判った。
「可愛い子?」
「可愛いです、彼女にキエさんの話しをしましたけど、彼女を大切にしたいので・・・・・元気な赤ちゃんを生んでください。」
キエに頭を下げて、返事を聞かないままスングは薬局を出て行った。
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