未来の光(スング) 46
たった一日だけ宿泊したホテルでも、長期滞在で予約を入れていたからキャンセル料を支払わなければいけなかったが、キャンセル料を支払っても、宿泊料金よりはかなり安いからバイト代が減らなくてホッとした。
こんな事を言ったらスングに嫌われてしまうかもしれないけど、本当はこのホテルで同じベッドで宿泊したかった。
「お母さんの思い付きにキャンセル料を出させて悪かった。」
「ううん・・大したことでは無いから。」
「お前って・・・クレジット払いじゃないのか?現金をどれだけ持って来たんだよ。」
「ちゃんと決められた金額だけ。クレジットカードも持っているけど、両親の通帳から引かれるし・・・・・・」
バイト代を使い果たしたら、お母さんに怒られちゃうなんて言えない。
スングのお父さんと違って、うちは病院経営と言っても、それほど大きな病院ではないし、小さい頃から親に負担を掛けてまで贅沢をした生活をしてはいけないと言われていたから・・・・・なんて・・・言えない。
「ほら、ここだよ。」
山手に上る中間地点にあるスングの実家。
大きな家が多い中で、さらにスングの家は大きくて煉瓦作りで目立っていた。
「大きな家・・・・・」
「おじいちゃんの代で作ったからな。優花の家も高そうなマンションじゃないか。」
「住む所はね・・・持ち家じゃないから、いつかは持ち家を持ちたいけど、いい物件が無いからって・・・・」
意外そうな言葉を言った優花の別の一面を見た気がした。
背が小さいから子供っぽく見えるから『物件が・・・・』の言葉に、思った以上に優花は両親に厳しく育てられているのだと思った。
キィ~と金属音がして門の扉を開けると、スングは優花のキャリーバックを持って玄関に向かう階段を上がった。
「庭も大きくていいね。振り返ると景色も良いし・・・町が一望できそう・・・・・」
「坂が多い町だからね、おばあちゃんはこの階段が大変だからって、ガレージの近くに離れを作ったから、母屋にはオレ達家族が住んでいるんだ。と言っても、スンスク兄さん親子以外は結婚して外に出ているし、その兄さんも自分たち親子の部屋で過ごしているから、家の中は両親が二人でいる事が多いんだよ。」
スングの靴の音と優花の靴の音が聞こえるくらいに静かなペク家。
まだ小さい頃は、スアとかくれんぼをしたり、スンギ兄さんが庭先に作っていた家庭菜園を耕す音や、スンリ兄さんが携帯で誰かと話をしている声に、家の中から聞こえてくるスンミが習っているバレエのレッスン曲で賑やかだった。
両親の遅い年齢で双子で生まれたスアとスングには、兄や姉たちの行動に憧れていたが、今はその兄や姉たちもこの家にはいない。
「ただいま・・・・優花を連れて来たよ。」
玄関のドアを開けたら臭って来る里芋の煮溢した臭い。
「お帰り・・・・・優花さんいらっしゃい。」
ハニが笑顔で優花を迎えてくれた。
お父さんとどんな話をして、お母さんが僕と優花の中を許してくれたのかは知らないけれど、夏の休暇の間にどんな家庭で育ったのかを優花に見てもらえれば、それでオレは良かった。
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