未来の光(スング) 49
「美味しかったわ、ご馳走様。」
グミは、朝食を残さずに食べ終えると、自分の食器を重ねた。
「お母さんが作ってくれたように美味しくなかなか作れなくて。」
「美味しいわよ。ハニちゃんが作る料理は心がこもっているの・・・そうよね、スンジョ。」
何も言わずにただ黙って笑っていても、スンジョが思っていることはグミにも判る。
最初は酷かったハニの料理も、時間を掛けてグミから教えてもらいながら、失敗を繰り返してかなり上手になった。
白湯を用意してグミに薬を渡すと、それでやっとハニの朝の仕事が終わる。
「スンジョ君、今日は大学に行かないの?それとも病院の方?」
「今日は休みを貰ったよ。」
「いいわね、教授になると自由になって。結婚した当初は、出張だ当直だ・・・緊急の呼び出しだとしょっちゅう家を空けていたのにね。」
「話があるんだ、お袋とハニに。」
「話?」
ダイニングからリビングに移ると、ハニはグミをいつも座るソファーに移動した。
「大学を辞めるよ。」
「辞めるの?それじゃぁ・・・病院だけにするの?」
「いや・・・・病院も辞めるよ。大学の方も名誉職に就いて残って欲しいと引き留めたし、病院の方も幹部として残って欲しいと言ったけど断ったよ。」
「またスンジョは一人で決めたのね。ハニちゃんとそういう事は決めないと。」
医師として執刀した数は、パラン大だけではなく国内でもトップで、勿論成功率はかなり高かった。
大学でも教授として沢山の学生を指導し、講演会では常に満席になる状況だった。
「どうして・・・・まだスンジョ君よりも年上の先生たちも現役なのに・・・・」
「もうやり尽くしたよ。後はこの家でお袋とハニと三人で、こうして過ごすのもいいかもしれないと思っている。それに、スンリが教授候補に挙がっている。」
「スンリが?」
「スンハも教授になったし、ヒョンジャは准教授だし身内で教授に准教授で占めていることは良くない。」
ハニはスンジョがずっと大学に残り、病院で後輩医師の指導をして行くものだと思っていた。
医師になってからも、教授になるまでもずっと勉強ばかりしていた。
どんな時も新しい医療技術を熱心に勉強して、身体を壊すのではないかと心配をしていた。
「ひとつ悔いが残るのは・・・・・・ミラの事だ。もう少し長く生かせてあげたかったよ。ミレもフィマンもとてもいい子で、一度も母親に会いたいと駄々を捏ねなかったし、かといって母親の事を忘れたことは無いが、成長した姿を見せてあげたかった。」
ミラの病気は、スンジョが悪いわけでもなく、進行が早い病気で子供を二人も出産したことが寿命を縮めてもいたが、反対に家族の愛で予想よりも長く、スンスクの妻として二人の子供の母親になった。
「ゴメン、ハニが見つけてくれた医者という道を、ハニが思っているよりも早く辞める事にして。」 「いいよ、スングも可愛い彼女が出来たし・・・・」
「本当ね、後はスングの結婚式を見たら、私はパパの所に行きたいけど・・・・・あと6年はね・・・生きられるかしら?ペク先生。」
「お袋ならあと100年でも生きられるよ。」
スンジョの恐らく初めて言った冗談だろう。
ハニとグミは顔を見合わせて、思わず噴き出した。
「あのペク・スンジョが、冗談を言ったわ。」
ハニと出会って結婚をしなかったら、こんな冗談を言うどころか幸せになる事も出来なかった。
子供たちが成長をして静かになったが、このペク家から笑は消えることはなさそうだ。
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