未来の光(スング) 52
いつかはハニに言わなければいけない事だった。
医師のくせに自分の体調が良くない事や、ハニがパニックになってしまう事が怖くて言い出せずに2年が経過していた。
幸いに従兄弟が医師だから、相談をしても誰にも知られることなく検査や手術も出来る。
「先生・・・・本当に辞められてしまうのですか?」
「はい、結婚してから一度も妻と二人でのんびりと過ごした事が無いので、残りの人生を妻と過ごすために使いたいので。」
「残りの人生って・・・・先生・・どこか具合が悪いのですか?」
「いえ・・・どこも悪くはないですよ。早くに学生結婚をしたので、デートもした事が無いとよく妻が言っていたので。」
秘書をしてくれていたミンは、突然スンジョが大学も病院も辞めると聞いて驚いていた。
パラン大の学生や若手医師だけではなく、病院理事会や同僚たちもスンジョが辞める事を考え直してほしいと、引っ切り無しに訪れていた。
スンジョの意思は固く、どんな好条件で引き留めようと考えを変える気持ちは無かった。
__ コン!
特徴のあるノックの仕方は、それが誰なのかスンジョにはすぐに判った。
振り向かずにその相手に、ノックの返事をした。
「スンリか・・・入っていいぞ。」
「今日は、私も来たわよ。」
スンハとスンリが、並んでスンジョの部屋の入り口で立っていた。
「珍しいな、スンハも一緒に来るとは。」
「今日はペク教授の最後の日だからね。」
部屋の中の私物や資料の殆どは箱に詰め終り、本当にスンジョがパランから去って行く日が来たと実感できた。
「こんなに早くに辞めるとは思わなかったな。」
「そうだろうか・・・・スンリが教授になって、親子3人が教授と言うのはいい事ではないと思う。ヒョンジャも准教授だし、パランは大学病院で個人病院ではないのだから、他の先生たちにも悪いだろう。どんなに優秀でも上に上がる事が出来ないと思われては、病院や大学の発展の為にも向上心にブレーキを掛けてしまう。」
子供たちには自分の体調の事は言いたくはない。
それほど重篤な状態ではないから、のんびりとした時間を過ごして、ハニとの生活を過ごす事を選びたいというのもあった。
「親父の教え子たちが、集まって歓送迎会の計画を立てているけど、都合が付く時があったら教えてくれよ。勿論、最愛のお袋同伴でも結構だけど。」
「悪いが・・・・明日から、お母さんと二人で記念の旅行だ。」
「じゃあ、戻って来てから時間を都合付けてくれれば。」
「無理だ。日本に行くから、帰国する頃は定期試験や国家試験の頃だ。」 「もしかして、それを計算しての退職と旅行か?」
スンリの質問に、スンジョは笑顔を浮かべるだけで答えなかった。
スンリの考えも間違っていなかったが、その頃に結婚記念日もあったから、一度でいいからハニと二人で過ごしたかった。
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