未来の光(スング) 53
同居しているスンスクや高齢のグミには絶対に知られないようにしたいし、スンハやスンリにスンミとスンギ、それに妊娠中のスアにも知られたくは無かった。
母には頼ってもらえる長男として見てもらい、子供たちにはいつまでも健康な父でいたかった。
「兄貴、やっとお袋から解放されたよ。」
「仕事が忙しいから会えなかったから嬉しいんだろう。オレがいない間、頼んだぞ。」
日本での手術を誰にも言わないわけにはいかない。
高齢の母を置いて数週間家を空けるためには、たった一人の弟のウンジョに頼むしかない。
ウンジョにしても、優秀な医師の兄がまさかの手術を受ける側と聞いて驚いていた。
「ハニ姉さんは落ち込んでいるみたいだけど・・・・・・」
「まぁ・・・・・毎晩、起きたらオレが死んでいると思うと眠れないと言って・・・・」
「寝てないのか?ハニ姉さんは。」
「オレより先に寝息を立てているよ。」
ふたりは顔を合わせて笑ってはいるが、ハニの気持ちはスンジョにもウンジョにも判る。
50年近くスンジョだけを見て過ごしてきたハニだから、ギドンが亡くなってからは頼りきっていた。
「お袋は本当に気が付かないのか?」
「気が付いていないよ。今は自分の身体で精一杯だろう。スングの結婚式の頃までなんとか元気でいたいと言っていたくらい口に出さなくてもしんどいと思うよ。ほら、これがお袋に飲ませる薬の種類と服用の仕方だ。体調の変化があったら、スンハでもスンリでもいいからすぐに連絡をしてくれれば、パラン大病院から往診に駆けつける手筈になっている。ミアさんにも無理を言って悪いと謝っておいてくれよ。」
「ミアなら大丈夫だよ。ウジョンの子供も久しぶりにおばあちゃんに会えると言って喜んでいたよ。」
ウンジョもいつの間にか孫のいる年齢。
ハンダイもスチャンの頃よりも規模が大きくなり、忙しい毎日を過ごしているから健康には気を付けていた。
それなのに、医師である兄が長年の無理が祟って、まさか手術をするとは思ってもいなかった。
それは、スンジョ自身もまさか自分がと思っていた。
ハニと最期まで一緒にいるためには、まだ仕事を続けて沢山の人の為に自分の頭脳を使うより、ハニと静かに暮らして行こうと決めた。
「兄貴、手術の成功を祈っているよ。」
「大丈夫だ。そんなに大変な手術じゃないし、智樹が執刀するのだから心配ないよ。」
そうは言っても、ハニが手術の間にどんな気持ちでいるのかと思うと、その方が心配になっていた。
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