未来の光(スング) 55
いつも日本に来た時には、従兄弟の智樹の家に世話になっていたが、ウンジョ夫妻以外にはオレの手術の事は知らせたくない。
さすがに今回は泊まれないだろう。
スングが下宿させてもらっているのだから。
判っていたけど、少しどころかかなり不安なスンジョ君の手術。
琴葉さんがいれば、一緒に話しをして気が紛れたのだけど、マンスリーマンションでひと月ちょっとの生活でも家事は普通にしなければいけない。
スンジョと一緒に必要最小限の買い物をして、マンションに戻ってもハニは寛ぐことが出来なかった。
「心配か?」
「スンジョ君・・・・」
「切開の大きさも小さいし、三日目には起き上る事が出来るくらいに、身体の負担は無い手術だ。三日だけハニは寂しい思いはするかもしれないけど、智樹の腕を信じているから大丈夫だ。」
「死なないでね・・・スンジョ君が死んだら・・・・」
「死なないよ。ハニとデートもしたいし、日本でひと月も過ごすのは、二度目の新婚旅行を楽しもうとも思っていたのだから。」
お前が思う以上に、オレは死に対して恐怖がある事は知らないだろう。
お前と出会ったころのオレなら、死に対して恐怖心など感じもしなかった。
人の命に関わる仕事をしたから、死が怖いと思うのもあるが、ハニと離れてもう会う事が出来ないと思う事が一番怖かった。
ハニがいるから、ずっと医師として仕事を続ける事が出来たし、ハニの性格に似た子供たちと過ごせることが出来た。
その幸せをずっと続けるための手術だから。
マンスリーマンションの小さなキッチンに立つハニは、昔の様に不器用なハニではなく、包丁づかいも安心して見ていられる。
「今夜はね、ハワイアン・ロコ・モコなの。」
いつだっただろうか、家の中に煙が充満したのは。
あれから何度も作ったが、やっと成功したのはスングとスアを妊娠中だった。
それまでは、失敗だらけのハワイアン・ロコ・モコだったが、アレはアレでオレは好きだった。
「来た早々に、お前の得意料理が食べられるのか。明日からは病院食だからありがたいよ。」
小さなテーブルを挟んで並べられた二人分の食事。
初めての二人だけの旅行と、明後日には手術を受けるスンジョの無事を祈る静かなディナーに会話はないが幸せな夜になった。
0コメント