未来の光(スング) 57
智樹さんに、我儘を言っちゃった。
手術着を着せるのは私にやらせて・・・って・・・
仕事で何度も着せたのに、どうしてスンジョ君だとこんなに震えるのだろう。
「結べない・・・・」
「自分で出来るから。」
ハニの手が冷たかった。
手術は何度も経験したが、する側からされる側に変わって、当事者の気持ちを今になって気づいた。
医師がいくら簡単な手術だと言っても、患者や家族にとっては不安で仕方がないと言う事。
ハニにしても、何度も患者の着替えを手伝い不安が無いように声を掛けていた。
「ペク・スンジョさん、手術準備室に移動します。」
看護師が車椅子を持って病室に入って来た。
「スンジョ君・・・・・・・」
「ここで待っていればいい、大丈夫だから。智樹はオレの次に腕がいいのだから。」
いつもと変わらない笑顔をハニに向けた。 スンジョ自身、そんな風にハニに顔を見せる事が出来るとは思わなかった。
「でも・・・・・」
「オペ室の前の廊下で待っていても、言葉もわからないし不安だろう。ここで待って、オレが戻って来た時に、いつものように『お帰り』と言ってくれればいいから。」
看護師がいるから我慢をしているのだろう。
ハニは、涙を溜めた目でスンジョに笑顔を見せた。
「行ってらっしゃい。」
「行って来ます。」
病室のドアから車椅子で移動をするスンジョの後姿を、できるだけ明るい声でハニは見送った。
不安なことは考えない様に、絶対に大丈夫だから。
智樹さんは、スンジョ君の次に腕がいいのだから、きっとスンジョ君は無事に戻って来てくれる。
「何時だろう・・・・・」
オペ室に入って30分。
その30分がとても長く、病室に一人で待っていると不安で仕方がない。
万が一、スンジョ君の身に何か起きたら、お母さんにどう話せばいいのだろう。
何も知らない子供たちになんて話せばいいのだろう。
「飲み物を、買って来よう・・・飲んで待っていれば気が紛れるかもしれない。」
小銭を手にしっかりと握り、自販機でボタンを押した。 よく冷えて冷たいはずなのに、手にその温度が伝わらない。
近くの椅子に座って半分ほど飲むと、少しだけ気持が落ち着いた。
昼過ぎには終わると言っていた手術。
今、どんな状況なのか知りたい気持ちもあったが、全てを任せているのだから病室で待つしかない。
廊下を急ぎ足で歩いてくる看護師がいた。
スンジョに付いている担当看護師だ。
「奥さん・・ペク・スンジョさんの奥さん。すぐに病室に戻ってください。」
韓国語を話せる看護師を付けたと、智樹から聞いていたが、スンジョに何かあったのではないかと思った。
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