未来の光(スング) 60
手術した翌日にはスンジョは身体を起こして、ハニと話しをしていた。
医療技術は日々進んでいるが、それでよりもスンジョの傍にハニが付いていることが一番の薬となった。
「智樹さんがね、世界一腕のいい医師だと言うのよ。それに看護師さんまで・・・それを聞いたら違うでしょって!」
「それをお前は、口に出して言ったのか。」
「心の中でね・・・・・スンジョ君が一番だと思うの。」
まだ長い間話をすることは辛いが、いつもハニのくだらない話を聞いているスンジョだから、特別にどこかに負担が掛ることは無かった。
「智樹とは同じ年だが、アイツはまだ現役で仕事をしているからな・・・・」
「だから?」
「世界一はアイツかもしれない。」
こんな事を言えばハニは気に入らない事も判っているが、スンジョにしたらどうでもいい事だ。
「ハニにとってオレが世界一なら、それでいいだろ?オレはあまり気にしていないから。」
「そうね・・・・・」
熱いおしぼりでスンジョの背中をハニは拭きながら、こんな風に身体を壊すくらいに、人の為に仕事をしていたスンジョに申し訳ない気持になった。
背中越しで顔はスンジョからは見られることは無いが、自分がスンジョに医師と言う道を勧めなかったら、ハンダイの社長として身体を壊すことなく過ごしていたと思い涙が流れて来た。
「ハニ?」
背中を拭く手が止まったハニに、スンジョが顔を少し後ろに向けて声を掛けた。
「は・・・はい?何?」
「またお前は、何か自分の責任だと思い込んでいるだろう。」
「別に・・・・」
「お前のせいじゃないから。医者のくせに、自分の健康管理も出来なかったオレがいけないんだよ。もう、大丈夫だから。これからはハニと一緒に、今まで出来なかった事をして行くんだろ?そのための手術だったんだ。」
「私の為?」
「そうだ、お前の為じゃなかったら、手術なんてしないよ。今のオレがこうしていられるのは、ハニのお蔭だよ。お前に似て、子供たち全員の性格がいい子ばかりで本当に良かったよ。」
新しい入院着をスンジョの背中から掛けると、ハニはそのままスンジョの背中に抱き付いた。
「ハニ?」
「全員の子供たちが、スンジョ君の頭に似ればよかったのに、スンギだけは勉強が出来なくて・・・ゴメンね・・・私に似ちゃって・・・・」
「スンギはいい子だよ。小さい頃は甘えん坊で泣いてばかりいたけど、スングとスアが生れてからは明るくていい子で・・・お前によく似ているよ。」
スンジョの広かった背中も、病気のせいなのか随分と小さく肉も落ちていた。
この背中に負ぶさったのはもう随分と前の事。
温かくて安心できるスンジョの背中は、ハニにとって一番落ち着く場所でもあった。
「おいおい、ここは病院だぞ。病室で如何わしい事はして欲しくはないんだけどな。」
智樹は二人の会話に割り入るように、口を挟み病室に入って来た。
従兄弟であっても、同じ職業での良き相談相手として同じ道を進んで来た。
見かけはそっくりでも、性格もタイプも全く正反対の二人。
術後の傷口を診て二人で何かを話している姿を見て、ハニは心の中で智樹に感謝をしていた。
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