未来の光(スング) 62
ひと月だけ居住をするこの部屋は、スンジョがいないと小さな部屋でも広く感じる。
病院に通うのにも慣れたとはいえ、殆ど言葉の通じない国で独りで真っ暗な家に帰ると、淋しさよりも急に不安感が押し寄せて涙が出て来る。
玄関のドアを閉めてすぐに部屋の鍵は掛けるが、電気を点ければ外からも帰宅したことが判ってしまう。
室内に入る僅かな灯りを頼りに、カーテンを閉めてから室内灯を点けた。
部屋の隅に、畳まれた一組の布団。
仕事でいない日もあったし、若い頃に足を骨折して入院をした事もあった。
骨折をした時は、手術の間ずっと取り乱していたのは随分と前の事。
あの時は独りでパニックになり、ギョルやミンジュ達に大丈夫だと言われ励まされていた。
今は、たった独りでその不安に耐えている。
スチャンと同じように仕事のストレスで身体を壊し、その体調の変化に気づかない事を悔やんでいた。
スンジョがここで一日だけ使った布団にハニは顔をうずめるが、少しもスンジョの臭いはしなかった。
暫くそうしてからバスタブに湯を張り、湯がいっぱいになるまでスンジョに持って行くおかずの失敗作を食べて、食器を片付けると丁度バスタブに湯が溜まる。
「明日は、退院日・・・智樹さんが食事に招待をしてくれているから、何も作らなくていいわね。智樹さんには毎日会っているけど、日本に来てから一度も琴葉さんに会わない事に気が引ける。」
日本に来た時にはいつも世話になっている琴葉に会えば、スングに判らない様に手術をしていることを、話してしまいかねない。
話す相手もいなければ、テレビを観ていてもよく判らない。
そんな時に携帯が鳴った。
スンジョの体調が変わったのかと思って急いで出ると、電話の向こうから聞こえたのはウンジョの声。
<姉さん・・・兄貴はどう?>
「ウンジョ君、今家に帰って来たの?」
<出張の帰りの車の中>
「ミアに話したけど、成功したわよ。明日には退院なの。」
<明日・・・随分と早いな>
「今は、傷口も小さくて回復も早いの。今月中はこっちにいるけど・・・・・お母さんの具合はどう?」
<変わらないよ。兄貴と姉さんが二回目の新婚旅行に行ったのに、誰がカメラマンをやるんだと、騒いでいるよ>
実家に泊まり込んで、ミアと一緒にグミに付き添っていてくれるウンジョ。
ウンジョも仕事熱心で、スチャンやスンジョのように病気にならなければと思っていた。
ウンジョとミア以外は知らないスンジョの手術。
ふたりに内緒にするように頼んだことが、負担にならない様にとハニもスンジョも心配をしていた。
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