未来の光(スング) 63
手術をしたからと言って無理はしない様に
こんな事を言われなくてもスンジョは無理をする事はないし、智樹も一応形式的だからと伝えた。
「で・・・・ひと月こっちにいると言ってたけど、残りの二週間はどうするんだ?」
「スングが付き合っている人の事は聞いているか?」
「一応・・・琴葉が聞き出してくれたから、大体の事は。大瀧病院と言ってベッド数の多い病院ではないが、何代か続いた総合病院だ。大瀧健一・・・優花さんのお父さんだが、オレの大学の後輩だ。真面目な男で多少気難しい感じはするが、お前と似ているからスングも上手くやって行くことは出来る。優花さんの母親の美佐子さんは内科医で健一さんと同期だが、オレは面識はないが何事も完璧にこなしている割に、人当たりも良くて・・・まぁ・・この家族に関しては、悪いうわさは聞かないな。こんな感じでいいかな?」
智樹も従兄弟のスンジョから預かっている立場で、簡単に身辺を調べてくれていた。
興信所と書かれた封筒をスンジョに渡した。
「調べた事をスングには言ってあるのか?」
「いや・・・言ったらスングもいい気分にならないだろう。大瀧の方も優花さんには知られないように調べていると思うよ。」
茶封筒から調査内容が書かれた物を出してスンジョは読めるが、ハニは一緒に見ても字を読むことが出来ない。
いつものようにスンジョが決めた事だから、スンジョに任せておけば大丈夫だと信頼している。
「で・・・6年後に結婚って・・その間に他に相手が出来たらどうするんだ?」
「それならそれで、それだけの思いだったんだ、と言いたかったが、お袋も歳だしスングの結婚を見たいだろう。スングが結婚すれば、孫全員の祝い事を迎える事が出来たと思って安心するだろう。」
「おばさんはどんな具合だ?」
病気と言う病気ではないから、心配をするほどでもない事は智樹も知っているが、智樹の母親でグミの姉のユミも亡くなり自分の兄妹が一人も生存していない。
そんな小さな事も、高齢のグミには精神的な負担を感じる。
「オレのお袋も異国に嫁いで苦労したけど、最後は孫の結婚式を見てひ孫を抱いたことが嬉しかったと言っていたからな。おばさんもひ孫を抱いてるけど、あのファン・グミはスングの子供も抱きたいと思うだろうな。」
「それは無理だろうけど、大瀧さんが許してくれるのなら、身内だけでの式を・・・と考えている。」
「そうだな・・・お前も、おばさんや子供たちには内緒で手術をしたけど、絶対に大丈夫とは言えないから。」
琴葉同様に、ハニも夫一筋で自分のすべてで愛している。
スンジョの横で話を聞いているハニにも判るように韓国語で話してはいるが、今の智樹の話にハニの顔色が変わった。
「ハニさん、オレの腕は世界一だ。だけど、このスンジョがひとりで格好つけて無理をしないように脅しただけだから。」
「世界一・・・・」
スンジョの顔を見上げてクスッと笑ったハニは、正面を見向いて智樹に応えた。
「智樹さんは世界一の腕を持った医師だから、信じていますよ。スンジョ君は私が傍に付いて無理をしない様に見張っています。スンジョ君を見張る事は私の特技の一つで得意なので・・・・・」
智樹とスンジョの大きな笑い声が、特別室のある階の廊下に響いた。
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