あなたに逢いたくて 69

スンジョの背中を見ながら、巡回に行くハニは表情を隠そうとしているが、それでもどこか幸せそうに見えた。

訪問する家の年老いた人たちに優しい顔で話をしているスンジョを、チラチラと見ていると、初めて見るスンジョの表情を、この島から去って行っても忘れたりしないようにと頭に刻んでいた。

スンジョが赴任して来てから、島の人々がハニの明るい笑顔で希望を見つけ、スンジョの優しい物言いに癒され、老人ばかりの島が活気づいて来た。

スンハとハニと赴任して来たスンジョの三人が、診療所で幸せそうにしているのを見ると、自分たちも幸せな気分になると言ううわさが広がり、家の中でジッとして外に出ないでいた人たちが、自分の目で見て見たいと診療所まで足を運ぶようになった。

スンジョが島に来てから一週間。

何時しか診療所の前のスンハがいつも一人遊びをしている広場は、幼いスンハ達三人に元気を貰ったのか年老いた人たちの癒しの場になっていた。

明るく元気に走り回るスンハは、歌を歌いながら一人一人に抱き付きながら踊っていた。

「大好き、みんなみんな大好きだよ。」

と、いる人たちが年を取った人でも楽しそうにしていた。

それが薬になったのか、最初は座って見ていた人たちもつられて立ち上がり一緒にブランコを押したり滑り台で滑っているスンハに話しかけたりしていた。

半島に買い出しに行っているハニを待つ間、患者も来ることも無く診察室からスンジョはそんなスンハの様子を眺めていた。

「ペク先生・・・・」

スンジョが振り向くと、ギミがお茶を持って診察室に入って来た。

「ハニは何も言わないが、私は先生が島に来た時に直ぐ判ったんだが、先生はスンハの父親だろ?」

「ギミさん・・・・・」

「多分、島の人たちも気づいているさ。よく似ているからね、先生とスンハは・・・・あの子がハニと似ているところと言えば、あの太陽に温かな笑顔と元気な所だ。利発なスンハは先生とソックリだ。顔も・・・・・・・」

「以前こちらに赴任していたキム・ジョンス先生に聞きました。スンハが産まれた時のこととスンハが僕の子供だと言うことを・・・・・・・」

ギミはスンジョを責める様子も無く、ただ黙って腰掛けてお茶を飲むように促した。

「僕がハニを傷つけてしまったんです。大切で一生ずっと手元に置いて置きたかったのに手放してしまったんです。」

五年経っても思い出すのが辛くなる、あの時のハニの泣き声。

毎晩泣いている声が一枚の壁を通して聞こえて来る、苦しくて搾り出すような地を這う泣き声。

「何があったのかギドンからは聞いている。それに、先生がギドンの友人のペク・スチャンの息子だって事もな・・・・・・先生には言ってなかったが、先生がこちらに来る日にスチャンから電話があって、ようやく私の住んでいる所が判って挨拶をしたいと言ってきた。縁があるのかギドンの母親がいる診療所に、自分の息子が世話になりますが、どうかよろしくお願いします。と言って来た。何があって、ハニと先生が別れたのかは知らないが、真面目なスチャンの息子だ、遊び半分でハニと付き合っていたのでは無いと思ってた。その反面、純粋なハニを妊娠させて捨てたのだから信じることもできなかったのも事実だ。島に来て何日か経ったけど、先生がハニを見る視線に遊んで捨てたのではないと思った。」

静かな島の空気に、元気な声で遊ぶスンハとそのスンハを見て楽しそうに笑っている人たちの声が響いていた。

スンジョとギミはそんな様子を見ながら、話をまた続けた。

「先生は、苦しいんじゃないか?ハニが頑なな心で先生を拒否しているから。」

「ギミさん・・・・・・・」

「これからどうするんだね?今まで離れていたけど、一つ屋根の下で生活をするようになってこの先三年間、ずっとこのままじゃいけない事は判っているんじゃないかね?ハニは、誰に似たのか頑固で自分が正しいと思った事は貫き通す子だからね。」

スンジョは、自分の思いをギミに話そうと思った。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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