あなたに逢いたくて 70
オレはギミさんに、自分の閉じ込めていた想いを話してみようを思った。
産まれてから今まで、本心で話をしたことなどなかったが、どこかギミさん自身が心の奥底に傷ついた過去があり、オレとハニそしてギミさんの三人が共通する何かを持っているように感じた。
「言い訳になるのかもしれません。幼い頃のトラウマで・・・・・・ずっと友達という者を持ったことがありませんでした。
女の子が欲しかった母は、オレに妹が産まれるまでずっと女の子の格好をさせていました。
女の子の格好をさせられても、それが普通の事だと思っていたから、嫌がらずに過ごしていました。
幼稚園に入った頃、プールの時間に水着に着替える時に、男の子だと判ってみんなに気持ち悪がられからかわれたりしました。その頃に、妹が産まれたのですが、先天的に心臓が悪く一歳の誕生日を待たずに亡くなって、あまりの悲しさに毎日泣いている母を見て、自分が女の子の格好をしたら妹を思い出して元気になってくれるだろうと思っていました。結局、喜んでくれると思っていたのですが、母はルミの代わりはいないと・・・・・・・・・そう言いました。」
庭で遊んでいるスンハを見て、丁度自分が人を信じられなくなったのはあの頃だ。
それなのにあの頃の忘れたいと思って封じていた思いと重なって見えた。
「母はそんな意味で言ったのではないのですが、わずか四・五歳の子供には深く傷ついた一言だった。ただ笑っている母の顔を見たかっただけでした事なのに・・・決して母はオレを嫌っていたのでは無い事は判っていたのですが、自分の母親から拒絶されたように思ったのです。
小学校に入っても、幼稚園の頃のことを知っているクラスメートにからかわれ、外に出るのも辛くて・・・・友達が本でした。本を読んだりしているだけで簡単に覚えてしまうので、皆みたいに勉強を最近までしたことがなかった。スポーツにしても、少しコツさえ分かればすぐに出来るようになる、そんな自分の人とは違うもの・・・・・テストでも何でも完璧な自分に嫌気を感じていた。そんな外見だけの自分にチヤホヤする人にうんざりしていました。
自分の人とは違った能力を、嬉しくも無く達成感も感じた事のない毎日にうんざりしていた。
そんな自分の前に現れたのが、勉強も料理も満足に出来なくてドジで、だけどどんなに人からは無理だと言われても、自分自身の判断を信じて必死に努力して前に進もうとする。どんなに冷たく突き放しても、自分が見つけたその人の本当の心を読み取る力を持っていて、無償の愛で包み込んで人を幸せにしてくれる・・・・・そんなハニが最初は嫌でした。
からかっても意地悪してもオレの傍に来て、顔を何時間も飽きもしないで見ているんです。
そんな風に見ているハニが、最初は鬱陶しくてイライラしていたのですが、からかう事が楽しくて、むきになって怒ってくるハニを見ていると心が温かくなって、知らず知らずのうちに笑っている自分に気づいたのです。ハニといる時だけが心が軽くなって本当の自分になっていたのです。
大学に入って、一週間の合宿の間にラケットも握れない球拾い専門のハニに、試合が出来るまでに教えた時、男のオレの打つ球は素人にはとても受ける事は出来ないし、怖いはずなのに、痣が出来ても転んで身体が痛くて悲鳴を上げてもいいのに、泣き言を言わないで立ち上がるハニが眩しくて綺麗で・・・・・そんなハニを一生自分が守りたいと思って、付き合い始めたのです。
結婚するならハニと・・・・・そう思っていたのですが、父と進路の事でもめた時、日ごろのストレスで父が倒れ会社のことを考えて、会社のため父のため社員のために彼女を諦めなくてはならなかった。
諦められるそう思ったのですが、ハニがあまりにもオレの心の奥深い所まで浸透していて、ハニじゃなければオレが本当に自分を表現できないと知ったのです。
ハニが・・・・妊娠していることに気づいていたら・・・・・・そう思うと、今は後悔だらけです。
オレを拒絶しているハニに引っ張ってでも連れて帰りたいと思う勇気もありません。
ハニの心の氷が溶けるように努力するだけです。
それまで、ハニを見守ります。」
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