あなたに逢いたくて 71
ギミは目を閉じて、スンジョの話を聞いているが、一言も何も話さない。
それがスンジョには不安だった。
何をどんな風に言っても、大切な孫娘を妊娠させたうえ、別の女性と見合いをする為に捨てたには違いない。
「格好良い事を言っていますが、会社の為にとか社員の為や跡を継ぐことを願っていた両親の為と言いながら。ただ本当は自分が傷付くのが怖い小心者なんです。」
外でたった一人で遊ぶスンハが、自分を見ているスンジョとギミに気が付いて大きく手を振っていた。
ギミは、いつもの厳しい表情と違う慈愛に満ちた表情でスンジョに話しかけた。
「若いのに、随分と考えが深い。そんな先生だから、ハニが惚れたのだろう。時間はたっぷりある。三年のあるのだから無理をしているハニの心を楽にしてやってくれ。あの子は私の見ていない所で泣いている。ギドンにも心配させまいとして、電話が掛って来ても笑っているんだ。先生は、父親だからスンハが産まれる前からの様子を知る必要がある。スンハが産まれるまで書いたカルテがあるから、ハニがこの島に来た時からの経過を見てやってくれ。キム先生が、スンハの父親が表れた時に見ても良い様にと、彼なりに細かく書いたから。書き足りないところがあるかもしれないが、彼は内科の専門医だから大目に見てやってくれないか?」
ギミは、机の上にハニが妊娠中にこの島に来てから出産までと、キム・ジョンすとその次に赴任してきた医師が診た検診記録が書かれているカルテを置いて診察室を出ていった。
ジョンスの書いたカルテにサッと目を通して、それとは別に一冊のファイルがあった。その中には、誰宛てなのか明記されていないが表紙裏にメッセージが書かれていた。
≪スンハちゃんのお父さんへ≫
きっといつかスンハちゃんのお父さんの手元にこのファイルが届くと思っています。
胎児の超音波写真は、この島に来る前の病院から借りた物と、この島に来てから半島の総合病院で検診に行った時の物です。
*妊娠17週 赤ちゃんの器官の形成がほぼ出来上がりました。
順調に成長しています。
*妊娠21週 お母さんが初めて胎動を感じたそうです。
お母さんはとても喜んでいました。
何度も何度もお腹を蹴っているようで、とても元気のよい赤ちゃんと思
われます。
*妊娠22週 少し出血の可能性が見られ、早産の危険があり。点滴を投
与し1週間の安静。
お母さんは「せっかちの子供なのか、それとも私に似てそそっかしい子供なのか」と悩んでいました。
*妊娠26週 貧血が診られます。鉄剤を処方しました。
体重のコントロールは出来ています。
*妊娠29週 お腹がかなり大きくなり、船で総合病院まで通院するの
は大変になりキム・ジョンスが診察をします。
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*妊娠36週 突然の破水。陣痛があるものの、なかなか頭が出てきま
せん。助産婦の励ましで意識をしっかり保っています。
初めての出産ですが、辛い陣痛にも耐えてとても冷静に過ごされてい
ます。
時々、意識が遠のく様ですが亡くなられたご主人の名前を譫言のよう
に呼んでいました。
二日間の陣痛に耐えて、無事に2282グラムの元気でかわいい女の
子を出産しました。
20**,2,14
追記:このファイルがペク・スンジョさんに届いた時の為に
ハニさんはこのファイルの存在を知りません。看護師の国家試験の時に初
めてお会いして、お二人の絆を感じ取りました。
きっといつか、お二人が巡り合うことを信じてハニさんのおばあ様のパク・
ギミさんに託します。
キム・ジョンス
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