未来の光(スング) 65
「何かあったの?」
キャンパス内の広場のベンチで本を読んでいた優花は、電話を切った隣に座っているスングに聞いた。
「お父さんたちが日本に来ているんだって。」
「旅行?」
「用事があって来たって・・・・大学も病院も辞めたのに、何の用事だか・・・・・お父さんは勉強ばかりしているから、何の目的で来ているのか分かんないよ。」
膝の上の本を閉じてカバンにしまうと、優花も同じように本を閉じてカバンに入れた。
「これからどこに行くの?講義もないし・・・何か食べに行く?」
ベンチから立ち上がったスングに遅れないように、急いでカバンを肩にかけてスングの手を掴む。
いつもそうしているから、それが当たり前のように違感も感じない。
「お父さんが、優花の両親も含めて話がしたいから、時間を作ってもらえないかって・・・・」
「えっ!」
繋いだ手を優花は離してしまった。
「どうかしたのか?」
「別れろ・・・・って言われるのかな・・・」
「言わないよ。」
「でも・・・」
「一度は許したのに、やっぱり駄目だとは言わないから。」
ちゃんとした場所を決めて話をしたいと言っても、そんな場所をスングは知らない。
夏に帰国した時に優花と一緒に両親に会わせた後に、スンジョとハニが優花の両親に会ったと事後報告で聞いた事はあった。
「落ち着ける場所でどこかいい所はないか?」
「私はそう言う所は知らないけど、うちの両親に聞いてみるね・・・・でも・・何の話しだろう・・・・」
いつものバス停で待っていても、いつものバスにスングは乗らない。
どこに行くのかと優花が聞かなくても、なぜ聞かないのかとスングも聞かない。
スングは携帯の画面を開いて、何かを検索し始めた。
「どうしたの?」
「ん?両親たちホテルじゃなくて、マンスリーマンションで宿泊しているんだ。」
「マンスリーマンション?」
「何かおかしいんだよ・・・・・いつも日本に来た時は短期や長期関係なく、智樹おじさんの所に泊まっていたのに・・・・おじさんも、ちょうど両親が来た頃から、病院に泊まり込んだりした日が続いていたし・・・・で、今からここに行くけど、優花はどうする?」
「付いて行く。」
付いて行くのかどうか聞かなくても、殆ど二人はいつも一緒に行動をしている。
大学近くのバス停で待ち合わせて、その後は授業が終わって優花を家に送り届けるまで、ずっと一緒に行動していた。
その間に優花が友達と約束がある時は、その約束の場所近くまでは送って行く。
優花とふたりでスンジョ達が宿泊しているマンスリーマンションの前に来ると、さすがにいつも優花と一緒にいると思われたくないのか、スングは付いて来る優花の方を振り向いた。
「どこか・・・・そうだ、あそこのカフェで待っていてくれないか?両親と少し話したいから。」
優花と別れると、スングはマンスリーマンションのスンジョから聞いた部屋のある階のボタンを押した。
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