未来の光(スング) 66
人生で初めて二人だけで過ごす生活。
この歳になって多少気恥ずかしい感もあるが、これがオレの一番望んだ平穏な日々なのだろう。
「スンジョ君、傷口は痛くない?」
「大丈夫だ。もうほとんど塞がっているし、問題はないだろう。」
スンジョの横に座ると、シャツの上からハニは腕を触ると悲しい顔をした。
「どうした?」
「細くなっちゃったね・・スンジョ君の腕・・・」
「また鍛えればすぐに戻るよ。」
腕だけではなく、肩も身体全体も随分とスンジョは細くなった。
手術で痩せたわけではないが、大学を辞める前は殆ど寝ないで後進の為に、自分の今まで関わった症例を纏める為に執筆をしていた。
「ミアから、スンジョ君宛に沢山の手紙が届いているって・・・・これから医師になる学生が、スンジョ君がまとめた症例集が凄く役だったって・・・・・」
「役に立ってくれればそれでいいよ・・・新しい医療全てがいいわけではないし、昔の処置が合う場合もある。判断に迷う時に参考になれば・・・・・・そう思ってオレだけの話だけじゃなく、現役のスンハやスンリ・・・それにお前の話しも入れたから、看護師を目指す学生にも読んでほしい。」
ハニはスンジョの腕に自分の腕を絡ませ肩に頭を静かに乗せると、スンジョはそのハニの頭をそっと胸に抱いた。
出逢ってから初めて二人だけで過ごす時間もあと二週間。
それまでは、落ちた体力を戻して、グミに気が付かれないように元気な様子で帰国をしないといけない。
優花の両親と会って、二人の結婚を出来れば早くしてもらう事を許して貰えれば、智樹から進められた湯治場に一週間くらい滞在して帰ろうと持った。
「智樹が教えてくれた湯治場・・・あの星屑湯に似ている所みたいだ。秘境だから、都会の騒々しい音も聞こえず、夜は川のせせらぎが聞こえ星が瞬き、昼間は鳥の囀りに枝の擦れる音。今の季節はそれほど気温も上がらないし夜間が少し肌寒いくらいで、一番いい季節だそうだ。」
「初めての二人だけの旅行が、こんなに静かだなんて想像もつかなかった。」
「悪いな・・・・主はオレの手術だったから。」
「ううん・・・スンジョ君といられれば、私はそれでいいの・・・・・・」
そんな静かな二人だけの時間に、割り込まれるようにドアがノックされた。
「はーい・・・誰だろう・・・・・」
ハニはドアののぞき窓から外の様子を伺い、ソファーに座っているスンジョの方を振り向いた。
「スングが来たわ。」
スンジョはテーブルの上に置いてあった、薬袋を急いでハニのカバンの中に隠した。
0コメント