未来の光(スング) 67
「へぇー、こんなに狭い部屋で二人で生活をしていたのか。」
背の高いスングが身体を少し屈ませて、両親が一か月だけ生活をしている部屋に入って来た。
「何だよ、昼間っから子供に見せられない事でもしていたのか?」
親元を離れて日本で生活をするようになってからまだ半年も経っていない。
口の効き方や、雰囲気が兄のスンリよりもスンジョと似て来たスングに、ハニは嬉しい気持ちもあった。
「親父・・・お父さん、来ちゃったよ。」
「親父か・・・そう呼ぶのはスンリだけだったけど。」
数ヶ月前より痩せた父に、スングはすぐに気が付いた。
「どこか悪いの?」
「どうして?」
「痩せたから・・・・・」
「どこも・・・・」
スングの後から心配そうにスンジョを見ているハニに、何も言うなという表情をした。
「大学を辞める前に色々と忙しかったし、オレも歳だから・・・・何か飲むか?」
「親父と一緒でいいよ。」
小さい頃からスンジョのコーヒーを飲みたがったスング。
時々、スンジョのコーヒーをハニに淹れてもらって飲んでいた事もある。
「優花ちゃんは一緒じゃないの?」
「近くのカフェで待ってるよ。」
「一緒に来ればいいのに・・・琴葉さんからも聞いているわよ。スングと優花さんはいつも一緒にいるって・・・」
琴葉とハニはスングの情報を頻繁に連絡し合っていた。
人の子供を預かる責任感からの琴葉と、自分の子供が迷惑を書けていないかと心配をするハニ。
多少大袈裟にハニにスングの事を伝えていると、当然スングには判っていた。
母と琴葉はよく似た物の考えの人だから。
「親父から連絡があった後、直ぐに優花に話しをして探してくれるように頼んだよ。カフェでいくつか候補を見つけてもらって、後は優花の両親の都合を聞いて貰う事になってる。」
「悪いな・・この部屋もあと二週間借りているが、その後は少しこっちの湯治場にハニと行く予定になっているから急がせる形になって悪いな。」
スンジョの様子がおかしい事に、スングはどことなく気になっていた。
夏休みの頃から数ヶ月で、見て判るくらいに痩せたことは隠しようがない。
「優花の両親に会うって・・・何を話すのか優花が気になってる。」
「そうだな、当事者には言っておいた方がいいか。国籍の事もあるし、時間もかかるかもしれないが・・・・・優花さんと結婚を早めてはと・・・・・」
「親父・・・大学を出てある程度一人前になってからと・・・」
「そうは言ったが、おばあちゃんの年齢を考えるとな・・・・90歳になったし、いくら元気に見えても、どこがどう悪いわけでもないが6年後は難しいだろう。生存していても、孫の成長を楽しみにしていた人だ、こっちで式を挙げるとなるとさすがに来れないだろう。オレに最後の親孝行をさせてくれないか?」
「親父・・・・」
「お前も知っている通り、おばあちゃんは実の息子よりも嫁のハニを溺愛している。ハニの子供であるスングの彼女の花嫁姿を想像しては嬉しそうに話しているのを見ると、こっちが言い出したことだが早くお前たちの結婚式を見せてあげたくて。」
自分の健康不安を口にすることは無かった。
手術をして、普通の生活は出来ると言っても、加齢とともに一度弱った身体は元に戻すことは出来ない。
ハニと二人だけの時間を少しでも続けるためには、グミの願いも叶えてあげたいと思っていた。
0コメント