未来の光(スング) 69
ハニはスンジョが無理をしているような気がしてならなかった。
昨晩も眠れないのか、布団から起き上がって水を飲んでいた。
待たせてあるタクシーに乗ると行き先を告げて、スンジョは深呼吸をして背もたれに身体を預けた。
「無理しているのでしょ?隠しても無駄だから・・・・・」
「ちょっとな・・今日は優花さんの両親と話が付いたら部屋で休むよ。」
これがタクシーでなかったら、お願いだから眠ってと抱き付きたいくらいに顔色が良くない。
他の人ならわからない位でも、スンジョ君の顔をいつも見ている私には無理しているくらいは判る。
「お客さん、旅行で日本にいらしたのですか?」
「ええ・・・子供がこちらの大学に通っているので会いに来て、それから温泉旅行をする予定です。」
「そうですか・・どこの温泉に行かれるのですか?」
タクシーの運転手の話している事はハニには判らないが、具合の良くないスンジョに話させないでと言いたくて仕方が無かった。
大丈夫だと言うスンジョに、ハニはスンジョが出した手をしっかりと握った。
「運転手さん、水を飲んでもいいですか?」
「どうぞ・・」
ハニはカバンの中に入れておいたポットを出してスンジョに渡すと、少し口に含ませてゴクリと飲んだ。
「熱が・・・高いよ・・・」
「ただの熱だから大丈夫だ。慣れない土地に来たのもあるから・・・・・・」
体調が悪くても、人と会うと平気な顔をするスンジョが心配で仕方がないが、スングの為にも今日一日である程度話を決めて行きたい。
待ち合わせに指定した場所に近づくと、いつものスンジョに変わる。
高級料理店が並ぶ通りにタクシーを停めて、2人は寄り添うように降りた。
「親父!」
スングが店の前でスンジョとハニが来るのを待っていてくれていた。
「親父?どこか悪いのか?」
「別に・・大丈夫だよ。ちょっと風邪気味なだけだ。」
スングにも父の体調が悪いのが判ったが、それ以上を聞く事はしなかった。
「優花も来てるけど、この間の話はまだオレから一言も話していないよ。」
「あぁ・・・お父さんが言うから。」
スングが一番奥まった部屋の前に来ると、ドアを開けて優花の両親に自分の両親が到着したことを告げた。
「いらっしゃいペクさん、奥様。」
室内の照明が少し暗めなのが良かった。
体調が悪い事を優花の両親も優花も気づいていないようだった。
「ご夫婦でご旅行ですか?」
「ええ、病院も大学も退職しましたので。」
「おじ様、お久しぶりです。少しお痩せになられらのですか?」
さすがに痩せたのはあまり会っていなくても判るだろう。
「大学を辞めるのに、後進たちに送る本を執筆していたもので・・・・・・・・」
スンジョは優花とあいさつをすると、床の両親の方を向いた。
「実は、本日この席を設けてもらったのはお願いがありまして・・・・私の母も高齢で、孫たちの成長を楽しみにしています。それで・・・・・」
「優花とスング君を早く結婚させたいのですか?」
「どうして・・・・」
「スング君が我が家で夕食を一緒にした時に、なんとなくわかっていましたの。自分が結婚するまでは年老いた祖母に元気でいて欲しいって。それよりも私たち夫婦も話していたんですよ。毎日一緒にいるのなら、何も6年待つことにしなくても・・と。」
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