未来の光(スング) 73
智樹に紹介された湯治場・・・・
聞こえは古臭いが、そう話の中でスンジョ達は聞いていた。
電車を乗り継いで行くつもりでいたが、仮住まいにしているマンションを訪れ、スンジョが手術をした事を聞いてから、スングはずっと両親の所で寝泊まりをしていた。
静養に行くから下宿先にしている智樹の自宅に戻るようにと、そう言ってもスンジョが心配で離れられずにいた。
「心配だから、送って行くよ。」
駅までを送ってくれるのだと思っていたら、智樹の車を借りてスンジョ達の前に現れた。
「休日位のんびりと過ごしていなさい。優花さんといつも一緒にいるのに、お父さんたちと一緒にいなくてもいいよ。」
「優花といつも一緒にいるのは、日本に親しい友人がいないからで、せっかく両親が日本に来ているのなら帰国するまで一緒にいたいよ。」
親にいつもへばりついている子供ではなかったが、スンジョの事を知って心配で仕方がないのだろう。
静養先までは東京から随分と遠いわけではないが、高速道路を降りて一時間もするとこの先に宿泊できる場所があるのかと思うくらいにヒッソリとしていた。
「スング、道を間違えていない?木ばかりで、人が歩いていなければ家も全然ないけど。」
「大丈夫だよ。星屑の里は、時間を忘れて寛いでほしいと言う触れ込みだから、山奥の・・・・・ひと山越えた所にあるんだ。」
「よく知っているのね。スングは来たことがあるの?」
「オレはないけど、今人気の場所なんだ。時間に追われる日々からのストレスを忘れて、心も体もリフレッシュをするって・・・・数日前にもテレビで放映されていたよ。」
「スンジョ君も知っていたの?」
「知っていたよ。もう着いたみたいだな。」
山荘風の建物の前に旅行者の車が数台停まっていた。
玉砂利を踏む音をさせて静かに開いているスペースに三人の乗った車は停まった。
「別荘の星屑湯の建物よりも素敵ね。古そうに見えて古くない感じ・・・・」
「そう言うデザインだからな。」
車を降りると聞こえるのは鳥の囀りと、枝が擦れる音だけ。
車の音も人の話し声もほとんど聞こえてこない。
トランクルームから両親の荷物と、見覚えのないカバンが一つ。
そのカバンに気が付かないスンジョとハニの後に付いて、星屑の里の建物の中に入って行った。
「いらっしゃいませ・・・・・」
小さいがフロントだと判るカウンターで、1人のスタッフが建物の中に入って来た三人に声を掛けた。
「予約をしていた、ペク・スンジョです。入江智樹の紹介になっていると思います。」
スタッフはパソコンで宿泊予約者の確認をした。
「ペク・スンジョ様ご夫婦で1週間ですね。」
カチカチとチェックインデータを打ち込む音が、静かなロビーに響く。
「人数の変更は出来ますか?」
スングがスンジョの横から、スタッフに尋ねた。
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