未来の光(スング) 76
テーブルに並べられた食事に、ハニは目を丸くして驚いた。
「スング・・いつ料理をこんなに作れるように覚えたの?琴葉さんに教えてもらったって・・・・事はないよね。」
「琴葉おばさんに教えてもらっていないよ。優花のお母さんが結構料理上手なんだ。」
「そうなの?まだお仕事もされているのに、大変でしょうに・・・」
手際よくササッと作ったランチ。
両親に自分の手料理を振る舞ったことも無ければ、こうして3人で過ごしたことは今まで一度もなかった。
「美味しい・・・・スンギは昔からよく作ってくれていたけど、スングも作れるなんておじいちゃんの血を引いたのね。」
「かもね。」
誰かの為に食事を作ったのは、スングは初めてだった。
時々自炊はしていたが、下宿先の智樹の家に作ってもらったミニキッチンで出来る料理は限られている。
智樹夫妻が出掛けたり、食べたい物があると琴葉に頼むことなく自分で作る事もある。
「スング、ごめんね・・今まで。」
「なんの事?」
「兄妹が多くて、こうして3人で食事をしたり、旅行に連れて行ってあげられなくて。」
「全然気にしていないよ。逆に兄妹が多くてオレは良かったよ。親父が作ったペク家のパランでの数々の記録。中学の頃はそれが苦痛だったけど、いつか兄さんたちを追い抜こうと頑張れた。だけど結局は兄さんたちを抜く事なんて出来ないし、それはそれで恥じないように行こうと言う努力になった。高3の時は、ちょっと色々あって、ひねくれた物の考えをしていたけど、オレのわがままで留学を許してくれ、こうして一人でいる事で、両親の有難味を感じた。」
「高3の時に何があったの?」
キエとのことはスンジョしか知らない。
ハニに言ってはいけないと判っていたが、言わなければいけないとも思っていた。
「オレ・・キエさんと付き合っていた。」
ハニは持っていたフォークを、思わず床に落とした。
「キエさんって・・・ミナの娘のキエ?」
「うん・・」
「結婚して妊娠していたじゃない、スングが高3の時は。」
「うん。」
「その子供って、スングの子供なの?」
「それは違う。付き合い始めたのは、キエさんが妊娠している時だから。お袋には言わないでいようと思ったけど、優花と結婚をする事になって、この先韓国には帰ることがあまりなくなるから、ちゃんと話しておこうと思って。それで、今日ここに泊まるつもりで来たんだ。」
両親の知らない事はスアとギルの事もあるが、それは父も知らない事だし、スアは結婚をしてもうすぐ母親になるから言わない事にした。
それにスアのことは、双子であっても当人ではないから言うべきことではないと思った。
「スング、もうそれは言わなくてもいいだろう。優花さんも知っているし、お母さんには言わないでいようと約束しただろう。」
「判っているけど、もうこんな機会はないから、親父にも言っていない事を全部話すよ。」
0コメント