未来の光(スング) 78
池の畔を親子3人で歩くのも、親子3人で過ごしたのも初めてだった。
「親父、背が縮んだな。」
「60を過ぎたからね。大体3㎝から5㎝は平均して縮むという話を聞く。」
スングが小さい頃は、すごく背が高いと思っていた父。
サラサラの髪の毛をよく手で掻き上げている姿がカッコ良く見えたから、スンリの様に髪の毛を染めたりパーマを掛けたことは一度もなかった。
「やだ、スングったら!お父さんの頭が剥げて来たとでも言うの?」
ハニは、スンジョを見下ろしているスングからスンジョの頭を隠そうと手を伸ばして、ピョンピョンと飛び跳ねていた。
「おじいちゃんの血は引いていないぞ。」
「禿げていないよ。相変らず性格を表すような綺麗な髪の毛をしているよ。」
こんな風に気楽に親父とは話はしたことは無い。
親子なのに、親父は雲の上の人のように高い所にいた。
おばあちゃんから、親父の話をスアと一緒に聞いていても、まるで他人のように思った事もあったし・・・・・
「オレさ・・・親父が怖かった。」
「オレが怖い?叱ったことは無かったが・・・・・」
「叱られなかったから怖かった。子供だから、何を怖がっているのか判らなかったし、学校で聞く親父の子供の時からの話を先生たちから聞いて、天才って本当にいるんだと思ったし、それが目の前にいる人だと思うと・・・・他の友達のように叱られないのは、オレとスアは親父の子供ではないのかもしれないと思ったけど・・・・」
「思ったけど?」
「スアもオレも、親父とお母さんと顔が間違いなく親子だと判るくらいに似ている。」
スンジョとスングよりも先を歩いていたハニが、ベンチを見つけてこちらを振り向いて手を振っていた。
「お母さんはお父さん以外にはどんなことがあっても見向きもしないし、お父さんもお母さん以外・・・・・」
「以外?」
「欲情しないから、間違いなくお前はオレ達の息子だよ。」
スンジョらしくない言葉に、スングは呆気にとられたが、先にベンチに座っているハニの横に並ぶと、二人の間に割り込む隙のない程の愛を感じた。
60を過ぎても仲の良い両親がここまで来るのに、何も壁に当たった事が無いとは思わないが、こんな夫婦になりたいとスングはそう思った。
「スングが結婚したら、私達二人だけになるね。」
「そうだな。」
「なんだか恥ずかしいな。いつも家の中には私たち以外の誰かがいたから、それが普通の事で二人っきりになる事は考えられなかった。」
「そうだな・・・・もう一人子供でも作るか?」
「冗談を・・・もう無理よ。」
「そうだな・・・・・」
「スングが結婚したら、会う機会も少なくなるけど、もっと話しをしたり、一緒に出掛けたりしてあげたかった。遠く離れた所に住んだら、私達の事を忘れちゃうかもしれない・・・・・・」
ハニがスンジョの方に頭を預けると、背後からスングが両手で両親を抱きしめた。
「忘れないから、両親の愛も、兄妹たちとの楽しい想いでも、いい事も悪い事も。寂しくないよ・・・お母さんが一生懸命にオレを育ててくれたから。」
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