未来の光(スング) 80
一ヶ月の日本での生活も終わり、帰国の飛行機に乗ると数時間で空港に着陸する。
こんなに短い時間で行き来できるのに、異国に住む可愛い息子とはもう次に逢えるのは結婚をする為に帰国してくれる時。
留学したばかりの時は、淋しいけれど卒業をしたら帰国すると判っていたから、こんな風にその日を待つことも無かった。
「どうした?ベルト着用だぞ。」
「あっ・・・・・何でもない・・・」
スンジョにはハニの考えていることは判る。 自分と一番似ているスングが、結婚を決めてそれが同国出身ではなくて、そのまま帰国しない事が寂しいのだろうと思った。
「スングの事だろ?」
「スンジョ君・・・・」
「オレも寂しいのは同じだ。」
スンジョも自分の口から寂しいと言う言葉が出るとは思っていなかった。
こんな風な気持ちを、素直に言えるようになったのはハニのお蔭。
家族を持って幸せだと思えるのも、自分の気持ちに素直になって、ハニを選んで結婚をしたから。
「スンハやスンリにスンミにスンギとスアも結婚をして家を出ているのと同じだ。スングも優花さんと結婚しても、オレ達の子供には違いない。それはどんなに時が経っても変わらないよ。国が違えばしきたりや考えも違うのは当たり前で、スングが辛いことがあって頼って来たら、話を聞いてやればいい。お袋が今でもオレを子供だと思っているのと同じで、今でもお前は嫁ではなく娘だと思って頼っているだろ?親と言うのはそういう物だ。」
「そうかな・・・・」
「いつまで経っても、子供の親はオレ達だし、オレ達にとって子供たちはいつまでも子供だ。永遠に変わらない。」
飛行機が着陸すると、こうしてあと何度スングに逢いに日本に行く事が出来るのだろうと思う。
遅い年齢で生まれた双子の一人のスングが、20歳で結婚をする。 私達はもう60代。
お母さんも若々しくて活動的だったのに、いつのまにか90歳になってしまう。
お父さんが亡くなっても、海外で撮影旅行をして元気だったのは、つい最近の事だと思っていた。
スンジョ君が大学を辞めて、病院での仕事も辞めて、私と二人で過ごす時間を作ってくれたことが、残りの人生を幸せに生きて行きたいからだと思うと、本当にスンジョ君が私を選んでくれたことが良かったのだろうかと考えてしまう。
聞いてみたい。 スンジョ君に聞いてみたい・・・・・
「幸せ?」
ハニの小さな声で聞いた言葉に、スンジョは驚くほど早く応えた。
「幸せだよ。」
こんなに優しい声で応えてくれて私は本当に幸せだ。
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